2016年12月20日火曜日

病理の話(30) / がんの話(2)

「1.がんは、増える。」の話。



そもそも、たった1個の受精卵から、倍々ゲームで増えた細胞は、そのまま倍々で増え続けたら、単なる「カタマリ」になるはずだ。

でも、人間は、フロストギズモみたいなカタマリではない。手足があり、指があり、指の股がある。眼窩はくぼんで、そこにぴったりはまる眼球がある。激しい凹凸が、すごく細かく調節されている、ということだ。

すごいよね、目なんて、たぶん直径があと2mmも大きければ、眼窩の中でパンパンになっちゃって、うまく回れないだろう。日本の職人もびっくりのミリオーダー。


以上の構造の複雑さ・精密さは、細胞の増え方が、何かによって細かくコントロールされているということを意味する。

ここは増えて良い、ここは増えてはだめだと、シグナルが入るのだ。

たとえば、子供が大人になる成長の過程で、ある場所では細胞がすごく増えるし、ある場所では細胞があまり増えない。骨のはじっこには骨端線というのがある。あそこを中心にして、ぐんぐんと増える。だから、骨端線のある場所、すなわち骨の両端だけが、激しく伸びる。太さのほうは、新陳代謝とともに、じわじわ増していくにすぎない。

増殖スピードが、コントロールされている。

たとえば、皮膚。人間の体の中でもっとも薄いのはまぶたの皮膚だと言われている。「面の皮の厚いやつ」であっても、まぶたは薄い。一方、足の裏の皮はとても厚い。大人のかかとだと、小型の画鋲を刺しても血が出ないこともあるかもしれない(けど痛いから試さない)。

これ、うっかり、逆になったらどうなるだろう。足の裏の皮がまぶたみたいにペラッペラになり、まぶたがゴツンと厚くなる。

大変だ。歩く度に足の皮が破れるだろうし、まばたきの度に目に圧力がかかってしょうがないだろう。

これは、増殖スピードというよりも、新陳代謝のタイミングで調節されている。皮膚の細胞が下の方からせり上がってくる際、どれほど上に積もってから剥がれ落ちるかが、部位によって異なるわけだ。

メイクのCMなどで「お肌の角質」というだろう。あの、角質層が、いつどれほど剥がれ落ちるかをコントロールすることで、皮膚は厚さを保つ。


人体にある全ての細胞は、増殖と死が半ば「プログラム」されている。

そして、この「プログラム」が乱れると、「腫瘍」となる。乱れとはすなわち、

 ・異常なスピードでの増殖

と、

 ・不死化

である。


異常増殖が起こると、その場所での細胞数が異常に多くなる。従って、カタマリを作る原因となる。

ただ、細胞死がきちんとプログラムされていれば、ある程度のカタマリを作ろうとも、結局剥がれて落ちていくので、さほど問題にはならないのだ。過形成と呼ばれる状態では、細胞死プログラムはきちんとワークしている。

すなわち、腫瘍化する最大のポイントとは、「不死化」にある。細胞が死ななくなることは、かなり問題なのである。増えた細胞がいつまでもそこにあり続ける。カタマリを作るスピードが増してしまう。本来、そこにあるべきではない量の細胞が、満ちる。いろいろと不都合が出る。体内の免疫警察も出動することになる・・・・・・。



異常増殖と細胞の不死化。これが、腫瘍への大切なステップであるが、これだけでは「がん」を語ったことにはならない。

続きます。