2017年1月23日月曜日

病理の話(40) パイプを通して人体をみる

人体にはいくつかの「共通するシステム」がある。

たとえば、血管。血管は、パイプだ。上下水道に例えるとよい。体の隅々に張り巡らされ、行きは酸素を運び、帰りは二酸化炭素を運ぶ。ただ、人間が苦労して張り巡らせた上下水道よりも、血管はよっぽど優秀で、様々な老廃物をも運ぶし、ホルモンのような必需品も運ぶ。上下水道であると同時に、ガス管にもなっているし、宅配便の役割も果たすし、ゴミ収集車の役目も持っている。

こんなにすごいパイプがあるにも関わらず、人間の中にはさらにパイプがやまほどある。

腎臓から膀胱へ尿を運ぶ、尿管。乳汁を運ぶ、乳管。胆汁を運ぶ、胆管。膵液を運ぶ、膵管。唾液を運ぶ、唾液腺導管。肺と外界とをつなぐ、気管・気管支。脂質やたんぱく質のような、血管につまりそうなものを一部代行輸送する、リンパ管。口から肛門をつないでいる消化管だって、パイプだ。

どれもこれも、管だ。

管は、中身をつねに流していることが役目だから、中身が詰まった場合にはすべて病気になってしまう。いたってシンプルだ。

心臓の血管が詰まれば、心筋梗塞。脳の血管が詰まれば、脳梗塞。尿管が詰まるのは尿管結石、胆管なら胆石、膵管なら膵石。消化管が詰まると「イレウス(腸閉塞)」という。

詰まったら解除しないと、人間は基本的に、かなりやばいことになる。詰まりを解除するには、どうしたらよい?

手術か? 直接、手で取りに行くか? あるいは、超音波のようなものを当てて、石をくだいてしまうか? 原因が一部分に留まっているのであれば、その場所をまるごと取り外して、パイプを少し短くつなぎなおすか?



人間にはほかにも、システムがある。

胆汁、膵液、胃液、腸液、唾液、汗……。これらはすべて、「パイプの中に流し込んではたらく液体」である。この液体を作る、専門の工場がある。

胆汁は肝臓にある肝細胞で作る。膵液は膵臓の「膵腺房細胞(すいせんぼうさいぼう)」で作る。胃液は胃にある胃底腺(いていせん)の主細胞や壁細胞などが作る。腸液は腸上皮、唾液は唾液腺の腺房細胞、汗は汗腺。

体の中には、パイプの横にまとわりつくように、液体を作るシステムがある。外分泌(がいぶんぴつ)システムという。パイプの中とは書いたが、これらは最終的には体の外とつながっているので、「外分泌」なのだ。

一方、パイプの中にも、体の外とつながっていないものがある。それは、一番最初に書いた、血管だ。血管が体の外とつながっていたら大変だ。それでは出血してしまうではないか。

血管の中に、何かを流し込むシステムもあるのではないか? そう考える。

もちろん、ある。それが「内分泌(ないぶんぴつ)」というものだ。

甲状腺。副腎。脳下垂体。これらはみな、ホルモンを作り出す。血管の中に入って全身をめぐり、いたるところで仕事をする。細胞を元気づけ、アクセルをかけ、はっぱをかけるものが多いが、細胞をだまらせ、おとなしくさせ、力を蓄えさせるような命令を担当するホルモンもある。



パイプと、その中を通すもの。五臓六腑の大半は、これらのどちらかに関与している。

外分泌系が壊れたらどうする? 内分泌系がいかれたら、どうなる? これらもすべて、病気、そして治療にかかわりがある。



これらと複雑に絡み合いながら、かつ、これらとはある程度独立した、「統制」をとる必要がある。それを担うのは、脳と神経だ。脳が命令を出し、神経が電撃的に命令を伝える。そこのパイプ、開け。そこの工場、がんばれ。上下水道や宅配サービス、ゴミ収集車たちに複雑な命令を出すために、全身に張り巡らされた「インターネット」が神経であり、サーバーコンピュータとして脳が存在している。

そして、すべてを支える骨格、絞ったりゆるめたり移動させたりする筋肉、保温と緩衝と栄養備蓄を一手に担う脂肪。



これらの美しいシステムはいつも、外界の刺激に壊されないように、内部の反乱で滅びないように、守られているんだ、多様な免疫(めんえき)によって。


***


顕微鏡で、細胞一個にピントを合わせて、核がどうだ、細胞質がどうしたと言うとは、いったいどういうことか。

その細胞が、何県何市何条何丁目、何工場の何担当の誰さんですか、ということを知り、お前、ほんとはリーゼントじゃなくて坊主頭じゃないとおかしいはずだろ、君は包丁を持っていなければいけないのになぜマシンガンを持っているのか、と、気づいて指摘すること。

それがぼくらの仕事、ということも、できる。