2017年6月26日月曜日

病理の話(93)

「じゃじゃ馬グルーミン☆UP」というマンガがあるのだが、主人公である駿平が父親に向かって、

「父さんの仕事なんか、書類を右から左に動かすだけの仕事じゃないか」

みたいなことを言って、母親にひっぱたかれる、というシーンがあった。

ぼくはあのシーンがずっと頭に引っかかっているのだ。

子供から見ると、事務作業、頭脳労働の一部は、駿平のように「書類を右から左へさばくだけ」のように思われているのではないか……。

病理診断というのはデスクワークの本流みたいなもので、書類仕事であり、パソコン仕事である。勉強して、調査して、記載して、確認を受けて、連絡をして、報告をして、相談をする……。

この仕事、そうだよ、「右から左へ」の類いではあるよな。



書類を右から左にさばくにもスキルが必要だ、と言ったところで、スキルが必要とかそういう話ではなく、やりがいがあるのか、やっていておもしろいのか、どうなんだ、と、余計に疑義の詰まった目で見据えられることになるだろう。

さて、あのとき、駿平の父さんは、なんと言ったんだったか。



(そんな風に見えてるのか)とだけつぶやいて、特に反論などはしなかったように、思う。







ドライブが好きという人にも何種類かある。

・運転そのものが好きだという人。

・自分で好きなように居場所を決められる、行き先を自由に変えられるのが好きだという人。

・運転自体はまあどうでもよいのだが遠くに行くのが好きなのだという人。

・車の中がなんとなく落ち着くのだという人。



仕事も実は一緒であり、デスクワークが好きだという人にも何種類かいて、

・デスクワークそのものが好きだという人。

・デスクワークの結果、達成される、なにがしかを見るのが好きだという人。

・デスクにいることにこだわりはないのだが、頭脳を使うのが好きだという人。

・デスクがなんとなく落ち着くのだという人。

などがいる。



「書類を右から左にさばくだけ」というのは、「運転なんて右足を踏んだりやめたりしながら、手でわっかをくるくる回すだけだろう」というのと同じなので……。

ドライブが好きな人に、「そのハンドルくるくるの何が楽しいの」という質問をしないのと一緒で、デスクワークが気に入っている人に「その書類を動かすのの何が楽しいの」と言っても、答えは返ってこないのではないか、と思う。




ちなみにぼくはたまっているプレパラートを次から次へと「診断済み」の棚にぶちこんでいくとき、ハナクソがごっそりとれたような快感を覚えるタイプだが、ハンドルをくるくる回すことにはそれほど快感を覚えない。