2017年7月5日水曜日

帰ってきたら何だろうお腹のあたりがシュッちょしたんじゃないか

出張先で仕事や勉強が終わった後に、ホテルに引きこもってビールを飲んで寝てしまう。中年男性があこがれる、「ふらっとひとりで現地の居酒屋に入る」みたいなことをやった記憶がない。「駅前を所在なくぶらつく」とか「風俗に突撃する」とかもやらない。とにかくホテルでいつもより少しだけ高いビールを飲んで寝てしまう。

たまにもったいないと言われる。

せっかくなのでご当地のおいしいものを食べたらどうかと言われたりもする。

でも、今のぼくは、

「もう、十分に旅をしているんだから、この上さらに非日常を重ねなくても、満足なんだ」

「ホテルの部屋でふだん見ないバラエティやニュースを見ながら缶ビールを飲むことが旅の醍醐味なんだ」

と思っている。



これは、「人生を攻めて楽しむこと」ができなくなった人間の言い訳かもしれない。

あるいは、摩耗とか萎縮とか呼ぶのがふさわしい、矮小な人間性が表面に出てきただけのことなのかもしれない。

けれど、出張のときに飛行機の中で本をまとめ読みすることも、観光地に寄らずにホテルにひきこもっていることも、帰りに空港であわただしくおみやげを何種類も買い込むことも、ひとしく旅の色彩として腹におさめてしまっている。

それで心が満たされてしまう。

それで早く家に帰りたくなってしまう。

安上りの旅を繰り返しながら、ああ、ぼくはわりと旅行が好きですよ、などと周囲に言って回る。

うそは一つもついていない。




ところで、モンゴルから帰ってきたときに腹痛で寝込んでしまったのは、いつもやっていない「観光」を旅程に組み込んだからだ。

ぼくはこの、「めったに自覚しないレベルの腹痛」によって得られた非日常が、今ふりかえる分には、そこまでいやではなかった。それが、自分で、ちょっとおどろきであった。

もう少し年をとって、もう少し出張の主目的自体に興味をなくす日が来ると、あるいは、旅先で景勝地を見て回ったり、外食に出かけたりするのだろうか。

……そもそも、「出張」を「旅」と言い張るクセが、治るだろうか。