2017年10月26日木曜日

病理の話(135) スポーツ解説者と病理医の共通点

たとえば消化器内科医が、胃カメラや大腸カメラで胃・大腸の病気を見て、診断をする。

診断は詳しければ詳しいほどいい。

 ・なにか盛り上がっているなあ
 ・なにか赤いなあ

だけではなく、

 ・ここが出っ張ってここがへこんで、表面がちょっとざらついていて、超拡大すると表面の模様がみえて、白いふちどりみたいな円弧状の曲線がいっぱい見えて、赤茶色の血管が縦横無尽に伸びる様子が見えて……

てな感じで、彼らはとことん見る。たいしたものである。




彼らは、毎日いろいろな症例を見る。症例の中には、「ズバッと病気の本質まで見えてしまうもの」もあれば、「なんだか難しくて、その場で表面から見ただけではわからないもの」もある。

わからないものをどうするか?

持ち寄ってみんなで検討したり、論文にして世界に見てもらったりする。



難しい症例を持ち寄って、みんなでああでもないこうでもないと、「読み方」を勉強したり、新しい疾患概念を考え付いたりする場を、俗に「研究会」という。

この、研究会のときに、病理医の出番がある。





たとえば胃カメラ。たとえば超音波検査。たとえばCT, MRI。

臨床医はカメラで病気を直接見たり、あるいは体にX線とか磁気とか超音波とかを当てたりして、なんとか病気の正体を探ろうとする。

その後最終的に、病気の正体に最も肉薄するのは、病理医である。

病理医は、とってきた病気を切って、じろじろ見て、さらにプレパラートまで作って、細胞レベルまで見まくる。免疫染色を使って異常なタンパク質を見破ったり、ときには遺伝子検査まで行って細胞のルーツまで見極める。

一番答えに近いものを、見ている。

ということになっている。





そういうことになっているから、「研究会」という場で、病理解説という仕事が回ってくる。

臨床医たちがさんざん胃カメラや超音波やCTで見まくった病気に対して、「病理医からはこう見えたよ」、とパワーポイントでプレゼンをすることで、その場にいる多くの医者たちが

「おおー、なるほど、そういうことかあー」

となるように、がんばる。

これが病理解説なのであるが……。




ま、なかなか、思うようにはいかない。




病理で見たものをそのまま説明しただけではだめだ。

顕微鏡を見て思ったことを言う。細胞がこうなっているぞ、と。タンパクの異常があるぞ、と。

いくらミクロの世界を正確に読み解いたとしても。

「……で、その結果、なんで俺たちが胃カメラで見たものは、赤くて飛び出しててざらざらしているように見えたわけ?」

という、マクロの世界に対する質問が、ずばずば出てくる。







病理解説はサッカーの解説に似ているような気がするのだ。

テレビでサッカーの試合を見ていると、さまざまな実況・解説者がいる。

ひとりひとりの選手の名前をひたすら呼んでいくタイプの実況。

「あぁー!」「あぶなーい!」と、見ている人を盛り上げるが、その実、なにも解説はしていない、お調子者タイプの解説。

「長友の運動量がいいですね」「大迫のポストが効いてます」と、個人のはたらきを説明するタイプ。

テレビはエンターテインメントだから、どのようなやり方であっても、場が盛り上がり、視聴者が楽しめばよいと思うわけだが。

純粋に「どっちのチームが勝ちそうか」を予想するには、どのようなスタイルの解説がよいだろうか?




選手個々人の能力(身長とか足の速さとか)を語るだけでは、足りないだろう。

それぞれの選手のはたらきを読み解き、相手チームの選手とのポジショニング、フォーメーションのバランスに着目。

どの選手がどう動くことで、どこにどのようにスペースができ、そのスペースをどちらが有効利用するか。

ボールを持っていない選手の動きが、ほかの選手を考えさせ、走らせ、結果的にチーム全体の攻撃力を上げていることもある。



そして、解説は、

「サッカーのことはそこまで詳しくない人」

にわかってもらわなければいけない。これがポイントである。




サッカーを何年もプレーし、ゲーム理論なども理解している選手を相手に説明するのは簡単だ。どの選手のどの動きが有効だったかを、専門用語で語れば用が足りる。特殊なフォーメーションの効力を短い言葉で伝えられる。

けれど、「サッカーは好きだし興味はあるが、そこまで詳しくない視聴者」に、専門的な用語を多用して説明しきれるものだろうか。たぶん、無理である。





夜のニュースなどで、スポーツコーナーがはじまると、その日に行われたサッカーのダイジェストが流れる。日本代表戦などがあった日には、少し詳しい試合の解説が行われる。

その際、プレービデオを一時停止させて、選手にマルをつけたり、画面上に矢印を書いてみたり、早送りや巻き戻しを駆使したりしながら、ときには、フォーメーションを簡単にまとめたイラストのようなものも添えて、「視聴者がきちんとサッカーを楽しめるような、なぜ勝ったか・負けたかがわかるような」解説が行われる。

病理解説は、どちらかというと、この、「夜のスポーツニュースの解説」に近い。わかっているだけではだめだ。わかってもらう必要がある。

むずかしい。奥が深い。

うまくいかないことも多い。





ぼくは、病理解説のしゃべり方を考えるとき、「テレビ」を参考にしている。

スポーツニュース。お天気の解説。

あれ、やっぱ、すげぇと思う。色の使い方とか、矢印の見せ方とかね。ぼくはテレビっ子だから、余計にそう思うのかもしれないけれど。