2018年2月16日金曜日

パンが好きです

うどんを食うことを考えている。

土曜日の昼間だ。やることはまあある。しかしまずはうどんだ。

平日よりも2時間ほど遅く目が覚めたあと、のっそりソファに座って、朝飯もくわずにひざの上にPCをのせ、しばらくパタパタいろいろ書いたり読んだりしていた。テレビの音量は絞っていたがなにやら楽しそうにしていたのでそのままにしておいた。薄曇りの空が白く光っていて、厳冬にも関わらず部屋はわりと明るく灯りをつけなくてもよいくらいだった。

ふと見るとPCの充電が半分くらいになっている。そろそろPCを閉じてうどんを食いに行こう。平日にはなかなか行けないうどん屋に行こう。それが一番いい。出張のない土日は久々だ。うどん屋に行くなら、今日だ。

出張のない土日。札幌にいられる土日はいつ以来だろう。うれしい。札幌にはあちこち行きたいところがある。いまさら感がすごいが、この年になってあらためて、札幌をめぐってみたい気持ちがわいてきた。

ぼくは札幌産まれ札幌育ちだ。それでいて、札幌のラーメン屋とかスープカレー屋、蕎麦屋などをおちついて巡ったことがない。バーも焼き鳥屋も数えるほどしか知らない。地元に詳しくないのである。

大学時代、本州出身の友人たちは、はじめて生活する北海道という土地に対し、ちょっとこっちが引くくらいの愛情をもっていた。とにかくどん欲だった。夏休みや冬休み、長すぎる春休みなどを駆使して、彼らはドライブに明け暮れた。店という店を味わいつくす気まんまんであった。観光地という観光地を訪れまくり、ガリンコ号も雲海も宗谷岬も知床岬も二十間道路も、道の駅だって完全制覇である。

一方のぼくは生まれ育った町に対して、あらためて社会見学しようとは思わなかったし、北海道中膝栗毛を気取るつもりもなかった。思春期にありがちな、「さめていた方がかっこいいという理屈」も人並みに持っていた。

結果的に、大学を出るころには、道外出身者のほうが北海道の魅力に詳しくなり、道民が知らないようなお得な情報、おいしい店、きれいな景色、すてきな宿に精通していて、生粋の北海道民はむしろ生まれ育った土地に対し相対的に無知になる。北海道の大学生あるあるパターンと言える。

立派な中年となった今、かつてほどのトゲもなく、今さら自分の経験不足が惜しくなり、地元愛にも気づいて、遅まきながら思う。

自分の住んでいる町のおいしいものくらい食べ歩いておけばよかったなあ、と。

でも、そうか、札幌市内の飯屋くらいなら、この年であってもいろいろ回れるよなあ。

手始めに、今日はうどん屋に行こう。ぼくはうどんが大好きで、香川ではかれこれ50軒以上のうどん屋に行っているというのに、札幌では数えるほどしか行ったことがない。

これからは土日は休んでうどん屋に行くのだ。うどんの次はそば、その次はラーメン、スープカレー……。行きたいところはいっぱいある。まずはうどん屋だ、しかしどこのうどん屋にいこうか。候補探しのために、一度閉じたPCを再び開いた。





よし、ここだ! このうどん屋に行こう! 迷いに迷ったあげくに時計はもう1時を回っていたが、ようやく店が決まった。さっそく着替えて出かける準備をする。スマホと財布をズボンのポケットに片方ずつ入れて、……そういえばはじめて行く店だ、もう一度住所をきちんと調べておこうとスマホを取り出して検索した。そこにはこう書かれていた。

「麺が無くなり次第終了」

「土日祝日はお昼すぎには麺がなくなることがあります。ご了承ください。」






あーめんどくせぇ。食パンを焼いて食べた。土曜日はもう半分終わっていた。