2018年8月8日水曜日

失った年齢

スポーツを見に行きたくなった。

野球やサッカーももちろん好きなのだけれども、なにかちょっと違うスポーツはないかなあと思い、「チケットぴあ」のトップページから深々ともぐりこむことにした。

ラグビー、フィギュア、総合格闘技、相撲。

ついでに演劇や音楽のイベントも見て回った。

椎名林檎、MISIA、岡崎体育、そしてフジロック……。

ああ、そうだなあ、フェス、行きたいなあ。




北海道にはライジングサンロックフェスティバルという音楽イベントがある。ぼくは今まで3,4回くらいしか見に行ったことがない。あのロックフェスの独特の雰囲気はけっこう好きだ。

音楽のフェスは、神社のお祭りとはまるで違う。学校祭のわくわくとも違う。野外で行うがキャンプとも違うし、かといってライブハウスともコンサートホールともだいぶ違う。

そうだなあ。この感想は、ぼくだけかもしれないけれど。

夜中の繁華街で3,4時間ほど酒を飲んだ後、友人たちと別れて地下鉄駅に向かって歩いていたら、ウェイ系の集団が大騒ぎをしていて、うるせえなあ、楽しそうだなあ、俺はあっち側にいたことはないなあ、若いなあ、などとさまざまな感情にひたりながら、あまり刺激しないように、邪魔もしないように、横をそうっとすり抜けるときの、さみしく、不安な、わくわく感……

かなあ。





何年前になるだろう。川崎で開かれていた野外イベント、Bay Campに行ったことがある。

今しらべたら2013年のことだった。5年前か。

ぼくはLOSTAGEとZAZEN BOYSが目当てだった。

この2つのバンドが出るならどんなイベントでも行きたかった。

実際、ZAZEN BOYSは何度も聴きに行っていた。ただ、LOSTAGEだけはどうも巡り合わせが悪かった。札幌にLOSTAGEがライブに来ても、仕事の都合で(チケットをとっていたにも関わらず)聞きに行けなかったことが2度。ほかの地域でのライブも、直前までは行けそうなのだが、いざその日が来ると何か別の予定があって行けないことばかりだったのだ。

だからぼくはBay Campに行ったとき、「今回ももしかしたらLOSTAGEを聴けないのではないか」という不安がとても強かった。

心配は杞憂に終わった。ぼくは無事、Bay CampでLOSTAGEのアクトを聴くことができた。感動した。うれしかった。

ZAZEN BOYS、そしてLOSTAGEのライブが終わり、もうBay Campでの用事も終わったなあとは思ったのだが、Bay Campは特殊なイベントだった。

近隣への移動手段がない深夜に行われるため、早朝5時ころに最後のバンドがライブを終わるまでは、どちらにしろ会場にいる以外にやることはない。

そして、なんとステージが2つしかない。しかもその2つが極めて近い場所にある。

つまりは朝になるまで音楽を聴く以外のことができないうえに、イベントに参加しているバンドを事実上ほぼすべて見に行くことができるというぜいたくなフェスだったのだ。





ぼくはさまざまなバンドを見た。

普段だったら、まず聴くことのないようなバンドをいくつも。

group_inouは札幌に帰ってからすぐに音源を手に入れた。

the telephonesをはじめて聴いたのはフェスだったんだな。

今も毎日のように聴いているSuiseiNoboAzはこのころ出会った。

そしてラストアクト、ヘッドライナーは「髭 HiGE」であった。

これがまあ、ほんとうに、最高だった。

のび太君にしかみえないギターがとてもファンキーだ。

当時は確かダブルドラム。音がぶ厚かった。

須藤寿はカリスマだった。





最後のライブが終わると朝だった。それがまた、よかった。

ぼくはとなりで飛び跳ねていたかわいい女の子といくつか話をした。

そうだ、今しらべたら、あれは5年前だ。ぼくもまだ35歳だった。今ならとなりの女の子と話などしなかったろう。




HiGEに詳しいその子は、いくつかの曲についてきちんと解説をしてくれた。うれしかった。すべてのイベントが終わったあと、女の子は、幾人かの男性にナンパされて、その場を去っていった。

とても朝日が美しく、ああ、ぼくの考えるフェスの印象ってまさにこれだなあ、と思ったのだ。




ぼくはそれ以来フェスには一度も行っていない。

今年、実はとある講演の前日に、ライブに行けるかもしれない日が1日だけある。

けれど、それはLOSTAGEのライブなのだ。ぼくはたぶん、また、行けないんだろうなあと思った。