2018年9月27日木曜日

月は無慈悲な商売情報

月旅行に行きたいかという話をしていた。好き勝手な意見が並ぶ中、ひとりの冷静な人間が

「おいしいご飯屋さんがなく、圧倒的なインスタ映えだけをほこる、安全ではない観光地でしょ? ひとそれぞれだね」

と言って、居合わせた人間全員が

\そうだな そのとおりだ/

と学芸会のように納得して会話が終わった。




ぼくはちょっと月に行きたいが、それ以上にチェコに行ったりドイツに行ったりしたいし、五島列島でうどんを食べたいし、富士山にもまだ登っていない。ワインを飲み始めた人がいきなりロマネ・コンティを飲んでも味がわからないだろうというのといっしょで、いきなり月に行く前にまず見ておきたいものがいっぱいある。

けれどもぼくは月旅行のニュースをみて、いいな、行きたいなあと思わずつぶやいてしまうほうの人間でいたかった。

なにも計算をせず、行動がもたらす影響をおもんぱかったりせず、その場の直感でスッと選択をしても誰かがそっと尻拭いをしてくれるような、「人に生かされていると知るよしもないバカ」でいたかった。

財布をのぞきこむ。ウェブバンクの残高をみる。

月に行くには貯金が3ケタか4ケタか足りない。何ケタ足りないかすらぼくにはわからない。

ほうっと息を継いで次の休みに思いを飛ばす。SFでも読むか。