2018年12月3日月曜日

病理の話(269) 腎臓ができるまで

人間、というか哺乳類は、陸上で生活するために体をうまく進化させてきた。

ここを正確に書くと「たまたま陸上生活にフィットする変異をもっていたイキモノが生き残ってきただけ」となるけれど、このへんいちいち厳密に書いていくときりがないので、「うまく進化した」という雑な言葉であらわす。



陸上で生活する上では、いくつもの「機能」が必要だ。

たとえば、脱水に備えるということ。

海や川の中で生きているうちは、脱水に気を配る必要はそれほどない。まわりが水だらけだからだ。

けれども、乾燥した陸上で生きていこうとすると、脱水との戦いになる。

細胞内には水分が必要だ。水というのは化学物質を流動させる上でも、熱伝導の上でも、さまざまに用いる基本だからだ。

何より、生体に備えられている「循環システム」は血液によって支えられている。血液だって水分だ。

これが、陸上にいると、どんどん蒸散していく。

蒸発だけではなくて、尿でも水分が失われる。

尿を出さないわけにはいかない。体の中の老廃物はなんらかの形で外に出していかないと、血液の中にゴミがたまって死んでしまう。

だから尿を出すんだけれど、この水分が失われるのが地味にもったいない。

そのため、人間をはじめとする哺乳類の腎臓には、「再吸収」と呼ばれるシステムがあり、一度作った尿から水分をぎりぎりまで減らす。

つまりは濃縮する。

もともと血液に含まれているナトリウムとかカリウムを減らしすぎないようにする仕組みも備わっている。

体外に捨てたいのは、細胞から出てくるゴミ……アンモニア……を整形した尿素と呼ばれる物質だ。尿の素地と書くのだからわかりやすい。

この尿素だけをうまく排出して、水分はなるべく体内に戻してやる。電解質もあまり減りすぎないようにする。

これこそが哺乳類が発達させた腎臓の仕組みである。



この仕組みはとても複雑だ。腎臓の話をきちんと理解しているのは基本的に、腎臓内科医、総合診療医の一部、循環器内科医の一部、腎臓病理医など、専門性の強いひとたちばかりである。あと優秀な研修医たち。

ぼくはできれば腎臓のことを理解したいなと思い、しょっちゅう勉強しているのだが、40歳になった今も全貌をうまく理解できていない。ぼくの実力がそこまでだというと悲しいことになるが、実際悲しい。




こないだ読んでいた本にはこう書いてあった。


 ――――尿素を使ってアンモニアを捨てるのは哺乳類にとっては便利なシステムだが、
 タマゴを産む生物(爬虫類とか鳥類)にとってはいささか不便だ。

 なぜかというと、タマゴのなかで水にとける尿素を使うと、

 タマゴの中に尿素が充満して、
 タマゴの中身が死んでしまうからである。

 だから、爬虫類とか鳥類は尿素の代わりに「尿酸」を使う。

 尿酸は固形物(水に溶けない)であり、
 タマゴのカラにくっつけることができる。

 なお尿酸は水に溶けない以上、尿として排出することはできない

 (尿道に痛風をおこしたら地獄ではないか)。

 だから便にまぜる。

 鳥が飛んでいるときにおしっこをせず、白い便をぴちゃっと出すのは、
 尿酸の色による。

 というか鳥にはそもそも尿道がなく、

 「総排泄腔」といって尿道と直腸とがいっしょになったものを使っている――――


ぼくはこれを読んでびっくりしてしまった。腎臓の話ってのは理解しようと思うと獣医の知識まで必要になるのかよ。奥が深いなあ。