たとえばあなたがこれから、手元にある「みかん」を顕微鏡で見ようとおもったとき、みかんをそのまま手で掴んで顕微鏡に載せようと思っても、乗らない。
でかいからだ。
レンズの下には(レンズの種類にもよるが)スキマがあまりない。試しに測ってみたけど、2 cmに満たないくらいだ。
そこで、あなたはみかんをむくことにする。ちょっと減量させよう。
ひとふさとる。
これなら、対物レンズの下に入るだろう。あっ、でもまだちょっとでかいかな……。
そこで、みかんのひとふさの、薄皮をさらにむいて、中に詰まっている「涙のツブのような形をした、なんかちっちゃい実みたいなやつ(あれなんていうの?)」をひとつ取り出す。
これなら対物レンズの下に入るぜ!
ところがそれを置こうと思うと下に落っこちてしまうのだった。なんでや。
穴があるからや。
レンズの真下に穴がある。この穴の下からライトがあたる。
けっきょく、穴を橋渡しするような「ガラスプレパラート」の上に、みかんのつぶをのっけてみることになる。
よし、これで、みかんのツブをガラスにのっけて、あとは見るだけだ!
顕微鏡を覗く……。
すると、下から当たった光がツブにあたって……完全にシルエットになっている。
涙滴状のシルエットだ。ぴちょんくんクイズです。
これでは、なにがなにやらわからない。
病理診断で用いる顕微鏡は、「透過光型」である。下から光をあてて、上から覗き込む。
これだと観察する試料はふつうシルエットになってしまうのだ。中身がまるで観察できない。
上から光をあてて、反射光をみればいいじゃん、と思いがちである。しかし、新聞の文字や虫の羽をみるならばともかく、細胞を観察しようと思うと、反射光では光量が足りなくて、細かいところをうまく見られない。
下からの透過光で強くライトアップしないと見えない。
そこで……。
「みかんのツブ」ですらでかすぎる、というか、分厚すぎるのだ。もっとぺらっぺらに薄くすればいい。「向こうが透けて見えるくらいに」。
どれくらい薄くするかというと……。
4μmくらい。
髪の毛の細さがだいたい50~80 μmくらいとグーグルに書いてあった。
だから髪の毛よりもはるかにうすい。
細胞の大きさは、赤血球で6~8 μmくらい、皮膚の最表層付近にある有核扁平上皮がだいたい20 μmとかそんなもんかな(これらはググってないので多少ずれてるかもしれません)。
すなわち、レンズの下に置く試料を4 μmの厚さにするということは、ほとんどの細胞をまっぷたつにできるくらいうすくする、ということだ。
そこまでしてはじめて、「透過光で細胞の輪郭が観察できる」ということになる。
ちなみにこの「組織をペラッペラに切る」ことを薄切(はくせつ)という。
かんなのオバケみたいなミクロトームという機械を使い、訓練を受けた臨床検査技師が組織をペラペラに切る。実はぼくはこのミクロトームがうまく使えない。技師さんがいないとぼくは病理診断なんてできないのである。
かんなのオバケだぞ。すごいんだかんな(ギャグ)。