2016年10月3日月曜日

猫町には乳酸菌をとる女がいるらしい

コンビニで乳酸菌飲料を買う日が続いていた。浴びるように酒を飲んだ後、下っ腹が緩くなった朝がきっかけだったように思う。乳酸菌は腸に優しいという。飲む。飲料としておいしいね。夕方にはお腹のぐるぐるも治まっていた。リスクと戦う乳酸菌とやらを飲んだからかもしれない。

そんなわけないということはわかっているし、そういうものかもしれないということも知っている。


中学校だったか、高校だったか、「緩衝液」のことを習った。

緩衝とは衝突を緩めると書く。外部からの刺激をゆるめる効果がある液体、ということだ。弱酸と弱アルカリを混合した液体は、外部から多少の酸とかアルカリを加えても、pHがあまり変化しなくなる。学校では、そこんところを詳しく習う。弱酸と弱アルカリが加わった液体が平衡状態になり……。

まあ、そんなことはいい。高校生が学んで大学受験の道具にすればいいことだ。



どんぶりに一杯のしじみ汁が食いてぇ。特に飲んだ次の日の朝はとっても食いてぇ。ZAZEN BOYSがそう歌うから、飲んだ次の日の朝は乳酸菌飲料をやめてしじみ汁にした。飲料としておいしいね。夕方にはお腹のぐるぐるも治まっていた。リスクと戦うしじみ汁である。

人体という緩衝系に何をぶちこんでも、そうそう何かが変わるわけはない。ものすごい数の人を対象とした二重盲検法で差が出ると判明した特殊かつ金のかかる科学の結晶を、熟達したプロ野球投手のような技術を持つ専門家が丁寧にインローに投げ込むことで、ようやく人体に何かが起こり、病が揺らぐ、ことがある。

そんなものだろうとわかっている。そういうものなんだろうと知っている。


もし、そうでないとしたら。
単純な何かで生命のどこかがぐらぐらと揺らぐのだとしたら。
そこは、「心」と呼ばれる番外地ではないかと思う。

人体はほとんど緩衝系、社会も実は緩衝系、この世はすべて複雑系、そして心もまた弱酸と弱アルカリで満たされているように思っていたが、どうも心だけは容易に突き動かされる。

生涯を通じて、心に丹念に弱酸と弱アルカリを流し込み続けた人がいるとしたら、その人はきっと、乳酸菌飲料に何の健康効果も求めないし、しじみ汁は晩ご飯においしくいただいてそれ以上とも以下とも言わないだろう。



ところで今になって気づいたのだが、向井秀徳は先のフレーズに続き、「しじみ汁を肴に吟醸酒が飲みてぇ」と歌っていた。迎えちゃってんじゃねぇか。