2016年10月24日月曜日

論理的であります

一緒に映画見て帰ってきた人たちと喫茶店かどこかで語り合ったとしたら、たぶん話題に上るであろうこと、「予告編ってすげぇよね」ってことだ。これはもう、ほんとに、みんなあちこちで言ってるから、今更……と思われるかもしれないけど、こないだ久々に映画を見て、改めてそう思ったんだから仕方ない。誰にも頼まれてない、誰にも言い訳しなくていいブログには、そういうことを書いたって許されるはずだ。

今度、スタートレックの新作やるらしいじゃない。こないだシン・ゴジラを見に行ったときに知ったんだけど、予告編の最初からずーっと、「スタートレック」って言葉が出てこないのよ。でも、すごく、スタートレックくさい感覚が、じわーっとわいてくるような、宇宙戦争みたいなシーンが続くんだよ。断片的に。ゴオッ、って言いながらだ。で、2分とか5分とか経った時に、極めて瞬間的に「ミスター・スポック」が出てきて、「それは非論理的であります」って言うんだよ。あっ!!! ってなるじゃん、そこで。た、確かに、あの宇宙船、あの制服、いやーまさかと思ってたけど! ってなるじゃん。ま、まさか、今からスタートレックの新作やんの!!? ってなるじゃん。

で、予告の最後の最後に、

「B E Y O N D」

って表示されてから、数秒遅れで

ス タ ー ト レ ッ ク
 B E Y O N D

って、表示されるんだよ。これ、カタルシスだよ。この数秒遅らせた人、えらいよ。すごいよ。わぁーっ、ってなってから、ま、はじまるのは「シン・ゴジラ」なんだけど。

シン・ゴジラすごいおもしろかったよ。で、映画館から帰ってくるとき、まあ夜中なんだけど、車に乗りながら、映画館っていい場所だなあ……って反芻するわけ。レイトショーは人が少なくて、公開してだいぶ経った映画だとなおさら、「もう何度も見た」みたいな人とか、「疲れ切ってなんでもよかった」みたいなお客さんしか来てないわけ。そんな中に、音を立てないようにすごく気を遣いながらポップコーン食ってる中年とか、椅子にすわるなり脱いでたコートをめちゃくちゃていねいにたたんで膝に揃えてじっと待ってるお姉さんとか、ぽつり、ぽつりと座ってる空間が、もう、すてきなわけだよ。予告編なんてさっさと終わって欲しいって、子供のころは思ってたけど、今は逆なの。予告編の時間もとても楽しかった。わぁー! うれしいー! ってなるんだな。そこから全部反芻するんだ。シン・ゴジラはあちこちで考察もされてるし、正直ツイッターでさんざんネタバレ読んじゃってたんだけど、それでも、脊髄にひびく音と、画面以外飛び込んでこないくらい視界いっぱいに広がるスクリーンのでかさが、文章で読んだのとは段違いのゆさぶりをかけてくるじゃない。ああー、映画ってやっぱりいいなあ……大学時代、やることがない日に、すすきのの端っこにあるシアター・キノで、誰も見てないモディリアーニの映画みたいなのを見た時、ああ、ぼく、映画見るの好きかもしれない、って、なんなら「ドラえもん・のび太の日本誕生」以来はじめて気づかされたんだけど、あれからもう18年くらい経って、映画なんて金もかかるし時間もかかるし、駐車場が空いてるかどうかわかんないし、自分の見たい時間に始まらないし、どうしても足が遠のいていたわけなのに、予告編でミスター・スポックが出てきた瞬間から、「しまった、そうか、足りないのは、映画だったんだ!」ってなったんだな、で、シン・ゴジラを見て、なんかもう感動しちゃった。

38歳のすれた中年を喜ばせるほどの空間が、2000円も払わずに手に入るなんてこと、ぼくが18年も無視してきた世界に誰かが毎日たずさわって、どこかの中年はきっと毎日この感動をひそかに味わっていたんだなあ、ってこと。


まあ、ぼく、スタートレックにはそこまで思い入れないんですけど。