Aさん「先生、胃カメラで胃の粘膜をつまんで、ピロリ菌がいるかどうかを検査することがありますよね」
ぼく「はい、ありますね」
Aさん「生検でピロリ菌の有無を判定するときの精度はどれくらいでしょうか。生検だと100%わかりますか?」
ぼく「いえ、残念ながら100%ではありません。ピロリ菌は確かに顕微鏡で見つけることができるのですが、小さい胃の検体内に目視できるピロリ菌の数はせいぜい5,6個ということが多いです。細胞が産生する粘液の中に、小さな『ねじれ棒』状の菌体が、数個見える、というのが典型的。運がいいと100個以上みつかることもありますが、菌だからいつもウジャウジャ見えるかというと、実はそうでもない……というか、たいてい、ごくわずかしか見つけられません。」
Aさん「なるほど、ちょっとしかいないものなんですね。」
ぼく「ええ、しかも胃の中のどこにいっぱいいるかは胃カメラで見ただけではまずわかりません。ですから、『たまたま粘膜をつまんだところにピロリ菌がいなかっただけ』で、ほかの場所にはたっぷりとピロリ菌がいる、というパターンも十分にあり得ます。」
Aさん「じゃあ、胃カメラで粘膜をつまんでピロリ菌を見つけるのはあまり効率がよくない、ということですよね。」
ぼく「実はそれが難しいところで……ピロリ菌がいるかいないかを100%判定できる検査というのはそもそも存在しないのです。尿素呼気試験にしても、血中抗体検査にしても、絶対、ということはない。でも、もし顕微鏡で『菌体を見つけることができたら』、そのときだけは100%ピロリ菌がいると断定していいんですよ。」
Aさん「なるほど、うまく見つかれば、それは100%であると。」
ぼく「はい。ピロリ菌の現行犯をつかまえることができれば感染は確定です。」
Aさん「でも、『ピロリ菌がいないこと』を証明するのは難しい、ということですね。」
ぼく「はい、その通りです。『そこになければないですね~』というのは、ピロリ菌の検鏡検査(顕微鏡を見て行う検査)では言えません。」
Aさん「ところで、検診だと、内視鏡医が、『ピロリ菌のいないきれいな胃ですね』などと言うことがありますが、あれはどうやって決めているのですか?」
ぼく「ピロリ菌に持続感染した胃は、炎症を起こして色味がかわったり、粘液の出方が変わったり、ひだの太さがかわったりするのです。そのような変化が一切なければ、胃カメラでのぞくかぎりは『ピロリ菌はいなさそう』と判定します。」
Aさん「本当にいないかどうかはわからないんですね。」
ぼく「胃粘膜がほとんど無傷なら、ピロリ菌はまず存在していないと見なしても大丈夫。ただし、むずかしいのは、ピロリ菌以外の理由で荒れた胃のときですね。」
Aさん「ピロリ菌以外、ですか?」
ぼく「はい、たとえば自己免疫性胃炎(A型胃炎)とか、薬剤性胃炎とか……。ピロリ菌がいなくても、胃が荒れることはあるんです。そういうときに、原因がピロリ菌じゃないことを証明するのが、そこそこ難しい。」
Aさん「胃を荒らす犯人にもいろいろいる、ってことなんですねえ。」
※チャットでの会話をアレンジしました。ほとんどそのままだけど。