Windows updateを眺めているのだが、かなり時間がかかっていて、もののブログなどを調べてみたところ、アップデート時にはパソコンの中をチェックする作業が入っているようで、パソコン全体を確認してからインストールがはじまるために時間がかかるのだ、などということが書いてあった。本当なのかどうかは知らない。
しかし、アップデートのたびに自分をチェックするなんて、人間にはとうていできないワザである。
新しいニュース、新しい人間関係、新しいルール、新しい方針が目の前に降ってくる度に、自分の信条、過去あったこと、気質などをいちいちチェックしてから適応しようとする人が、どれだけいるというのか?
そう考えるとWindows updateというのは誠実だなあ、と、すっかり止まってしまった更新画面を眺めながら、思った。
知識のアップデートというのは大変だ。
あるときに自分が見つけた知識が、その後うそだった……うそまではいかないけど、大げさだった、そこまででもなかった、なんてこと、しょっちゅうだ。
ただ勉強するだけではなくて、自分が常識と思っていることが妥当なのかを検証しなければいけない。
けれど、ぼくらは、しばしば、知識のアップデートにおける「検証」をないがしろにして、ただひたすら情報を読みあさっていくことまでで満足してしまうことがある。
20年ほど前、アメリカでは「高タンパク質、メガビタミン、スカベンジャー物質の接種。以上が健康にいい」という説が流行ったそうだ。ぼくは、高校の時に、このフレーズを友人から聞いた。剣道部だったぼくは、筋トレの効率をあげるためにこれらを取り入れられないかと考えてみたのだが、高タンパク質はともかく、メガビタはデカビタCを飲むことでしか達成できなかったし、スカベンジャーに至っては何をとればいいのかわからなかった。
高タンパク質は、現在流行している「糖質制限」とも似た概念だったのかもしれない。メガビタミン(サプリでビタミンをとりまくる)は廃れてしまった。スカベンジャーってのはそもそもなんだったんだ? 今でもわからない。
でも、最初にこれを聞いた高校生のぼくは、「アメリカほど訴訟にうるさい国で流行ってるからには、きっと根拠があるんだろうな」くらいにしか感じていなかった。
今ならわかる。本当に体にいいこと、本当に社会にとっていいことが、「高校の友人から聞こえてくるお得情報」のレベルでしかぼくにやってこないなんてこと、あり得ないのだ。
本当にいいことなら、社会がもっとワッショイワッショイ推進して、公的機関もがっちり金をかけて回収しに回る。
「おばあちゃんの知恵袋」が役に立つのは、おばあちゃんの知恵が家庭で達成される「小さな幸せ」に照準をあわせているからだ。社会の健康状態みたいな大きな標的を、「ここだけの話」が撃ち抜く道理はないのだった。
こういう事例を、自分でも経験し、他人からも聴くに及び、「検証なき知識のアップデートは、害悪に近い」という立ち位置が、ぼくの中で明らかになっていく。
けど、ま、高タンパク質・メガビタ・スカベンジャーと聞いて信じてしまったぼくも、ただちに実行にはうつせなかったわけで、中途半端にアップデートした知識であっても、大ケガまでたどりつくことは少ないんだろう。
……だから、大ケガするまでは、気づかないんだろうなあ。
すっかりフリーズしてしまったパソコンを見てそんなことを考え、お手洗いに行って戻ってきたら、なぜかあれだけ進捗していなかったはずのWindows updateが全て終わっていた。
お前、ほんとうに、適切にアップデートされたんだろうな……?