2019年12月12日木曜日

病理の話(394) 診断とはなんですか

2020年の1月16日、三省堂書店神保町本店でイベントをやる。

http://jinbocho.books-sanseido.co.jp/events/5163#Rje4jnJ.twitter_tweet_ninja_l


國松先生と対談させてもらうのだ。すごいことだ。ご縁があるだけでもありがたい。

國松先生の本はおもしろい。今回、イベントでとりあげるのは『仮病の見抜きかた』という本だが、小説仕立てで非医療者でも読めるくせに内容がゴリゴリの医学書なのだからびっくりする。どういう脳をしてたらこういうものが書けるんだ。おどろくばかりだ。版元が金原出版(医療系)。これ、医書出版社ではなく、もし講談社あたりから出ていたら、ふつうに芥川賞の候補になったのではないか? まじで。たとえば『これはペンです』も芥川賞じゃん。ベルクソンの第一縮約後の表象を芸術と呼び、表象を扱う芸術的文芸に芥川賞が与えられるのであれば、『仮病の見抜きかた』なんておもいっきり選考対象作じゃん。せめてノミネートしろよ。選考委員のアンテナ短いんじゃないか?

……くらい、熱く、のめりこんでしまう本である。おすすめ。



ほかにも『病名がなくてもできること』という医学書があってこれまた激烈におもしろい。愛読書レベル。

國松先生の本にははずれがない。Amazon著者ページを貼っておく。

https://www.amazon.co.jp/%25E5%259C%258B%25E6%259D%25BE-%25E6%25B7%25B3%25E5%2592%258C/e/B06XZKY5FW%3Fref=dbs_a_mng_rwt_scns_share




いいだけ宣伝をしたが、イベントについてはぼくがこの記事を書いている時点ではまだ申し込みが開始されていない、記事が公開された時点では申し込みははじまっている(詳細は一番うえのURLを参照)。ということで、これを皆さんが読んでいる今日、もし対談イベントが満席になっていなかったとしたら……うん、ごめんねってかんじでめちゃくちゃに謝る。國松先生が出るイベントで100名分しか席がないなんて信じられない! 少なすぎる! というのがぼくの感想だからだ。それに、開催地が医書のメッカ(神保町)だぞ。2時間で埋まるに決まってる。埋まらないとしたらそれはぼくがよっぽど医書界隈で嫌われているとか、神保町に巣くう編集者たちが結託してぼくの悪口を言っているとか、そういう独特の理由がないと理解できない。

だからここからは満席前提で話をする。つまりもう申し込もうったって遅いよってことだ。めんぼくないけどあきらめてほしい。今日の段階で申し込めるわけがないのだ! ……たぶん。




「診断とはなんですか?」

この質問に多少なりとも答えられると思って対談を受けてしまった。しかし、その後、いろんな本を読むうちに、「診断」なんていう哲学にぼくなんぞが何か偉そうなことを言えるものなのだろうか、と、はなはだ心配になってきた。今はもう膝がガクガクしている。これは比喩ではなくほんとうである。冬だからね。

診断というのは名前をつける作業である。何につけるかというと、人の苦しみに名前をつけるのだ。ただここが難しいところで、実際には、「まだ苦しんでいない人」に名前をつけることもある。高血圧とか、脂質異常症とか。あるいは、苦しみがおわったあとに名前を後付けしなければいけないこともある。名前がついていなくても苦しいものは苦しい。名前がついたからといって苦しみが癒えるとは限らない。

……でも癒えることもあるのだ。ここが難しいところである。名前をつけるだけで足並みが揃うという効果もある。医療者たちがひとつの診断名に向かって行進することができる。逆に名前がなかなかつかないと医療者たちは困ってしまうが、名前がつかなくても動けてしまうという論理も医療の世界には厳然として存在する……。

何を言っているかというと、診断というのは医療そのものではないということだ。医療の一部でしかない。しかし、確かに医療を医療として際立たせる部品でもある。たとえばぼくのように、医療の三要素である「診断」「治療」「維持」のうち、診断しかしていないタイプの特殊な医療者もいる。

とにかく「診断とはなんですか?」を語ろうと思うとぼくは「こう」なってしまう。あっちへひょこひょこ、こっちへひょこひょこ、流浪と放浪の末に思考は散逸して、自分が確かによりどころとしているベースキャンプなのだけれどもそれがどういう形をしているのか、どういうメリットがあってどういう弱点があって、どういう志向性があってどのように同期していけばいいのか、まごまご、よろよろしてしまう。

そのあたりを当代きっての「診断者」である國松先生にゴッリゴリに解説してもらってメッタクソに料理してやろうじゃないか、というイベントだ。どうだおもしろそうだろう? 難しそうで、脳が熱を持ちそうで、わくわくするだろう?


……みたいなニュアンスを感じた人によって、申し込みが開始されるとほぼ同時に満席になってしまっているはずのイベントなのだが、もしまんがいち、席が余っているということがあろうものなら……まあそんなことはないと思うのだが……このブログを読み次第、申し込んでおいたほうがいいと思う。


http://jinbocho.books-sanseido.co.jp/events/5163#Rje4jnJ.twitter_tweet_ninja_l