2018年2月20日火曜日

君と余だ

手紙がきた。

先日出した看護学生向けの教科書について、看護関係の会の偉い人から、「いい本だね」とほめられた。手紙にはそう書かれていた。喜びが伝わった。

手紙の最後に、

「献本してなかった人なんですけど……」

と書いてあって笑ってしまった。

でもまあそれはしょうがない、エライ人だから献本して読んでいただくというのもへんな話だ。



もう一通手紙がきた。こちらは宛先が筆で書かれている。あっ、と思った。

中学校時代に通っていた塾の、塾長先生だった。ぼくは当時、札幌市内にある私塾に通っていた。塾長先生はもう80近いはずだ。ぼくは引っ越しを繰り返すうちにすっかり没交渉になってしまったが、両親はきちんと毎年手紙のやりとりをしていたと聞き、先日思い立って年賀状を送り、さらに教科書を送りつけたのだ。

先生は本を読んで感想を書いてくれた。縁が再びつながった気がした。今度、お宅に遊びに行かせてくれと返事を送った。



手紙にはほかにもいろいろ書かれていた。だいぶご高齢で数々の病気を経験されているそうだが、唐突に「今度南米に行ってくる」と書かれており、相変わらずたいしたバイタリティの人だなあと笑ってしまった。

ぼくが中学生時代というと今から25年以上前となる。先生もまだお若かったが、すでに経営の一部は息子にまかせていらっしゃったはずだ。先生本人はもともと英語教育の人だが、ぼくがその塾に入ったときには象徴みたいな存在になっており、講義にはたまにしか出てこなかった。

塾のエースともいえる別の人気講師が授業をやっているときに、教室の前のドアが突然バーンと開いて、高笑いと共に塾長が入ってくる。やけに縦長の、とても大きな字で、それまでの授業の流れを無視して黒板にガッガッといくつかの単語を書く。そして、その単語とは無関係に、大きな声で語るのだ。

「最初に海外でハウアーユーと言われた時ぼくはわからなかったんだ。彼はハウアーユーとは言っていなかった。ハワイー、って言っていた。ぼくはハワイがどうしたんだろうと思った。けれど彼はハワイーと言いながらぼくの返事を待っているんだ。よく日本人はhow are youと言われるとなんでもアイムファインと答える、と揶揄されている。知っているか。試験でもhow are youの答えはたいていファインセンキューだ。でもあれはおかしい。ときには調子が悪いこともあれば機嫌が悪いこともあるだろう。そういうときはこう答えろ。

So so.

これで通じる。ニュアンスは表情でつくれ。そうそう。それでいい。So so. これでいいんだ。」

ぼくはこの「so so」が好きで、いつかどこかで使おうと、ずっと思っていたのだ。結局今まで一度も使ったことはないのだが。

先生は、初対面の外国人に元気かと聞かれて、まあ普通だねと答えながら砕けるような笑顔で笑い返すことができるカリスマの人だった。今度なにかおいしいお菓子でも持って行って、ゆっくりと昔話をしようと思っている。