「ずるむけ」とか「もっこり」ということばを研究会で聞くことがある。フフッってなる。
この胃カメラの所見を説明するのにそのことば必要かよ、って思う。
もっと厳密なことばをきちんと使って欲しい。医者なんだからさ。
「ずるむけ」じゃなくて、
「粘膜下層を主座として発育した病変が、粘膜筋板を下から押し上げて粘膜下腫瘍様の隆起を形成すると共に、隆起表層の粘膜がびらんに陥って剥離し、粘膜下層の構造が表面に隆起しながら露出した状態」
ってちゃんと言えよ……って思う。
思うけれど……ううむ……「ずるむけ」って、便利なことばだなあ。ニュアンスはほぼ完璧なんだよなあ。
「もっこり」じゃなくて、
「粘膜内に何か、腫瘍細胞でも非腫瘍細胞でも炎症細胞でも構わないが何かが増生/増殖し、粘膜の丈が厚くなって隆起を来たした状態で、比較的立ち上がりが明瞭なことから限局性の変化であることが推測されるとともに、隆起部表層の粘膜にツヤ・光沢がみられることから緊満を感じる状態」
ってちゃんと言えよ……って思う。
思うけれど……ちきしょう、「もっこり」、便利だなあ!
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ぼくは、辞書編纂者(飯間さんとか)のツイートを読むのが好きだ。「舟を編む」も、とてもおもしろく読んだ。
ぼくらが日常的に使っていることばは、さまざまなニュアンスを含む複雑な状態を、あっさりと表現してくれていたりする。
ひとつの言葉も、掘り下げていくと、「ああ、確かにそういう意味を含むんだよなあ。」なんて、驚きと発見に満ちあふれていたりする。
医療の画像をみて、「ずるむけ」とか「もっこり」ほどはっきりした日常ことばではないにしろ、ぼくらはしょっちゅう、「ちょっとざらついた感じ」とか、「下から持ち上げてくるような」とか、「なんとなく派手な印象で」とか、そういうニュアンス性の強い言葉を用いる。
「なぜこういう言葉で表現したくなったのだろう、この像はぼくにとってどう見えているのだろう」というところをしっかり掘り下げる作業というのは、けっこうおもしろい。
けどやっぱり、もっこりはまずいんじゃないかなあと思う。