2018年2月23日金曜日

病理の話(173) ここでエコーのこと

さて今日は超音波診断の話をする。エコー検査という。

エコーとはよく聞く言葉だが、きちんと意味を取るならば「やまびこ」であろうか。音をぶつけてかえってくるやつが「エコー」だ。

CTは影絵だった。後ろから光をあてて、前からみる。

MRIは影絵ではない。音を聞いて鍵盤を思い浮かべるような複雑な思考。内部の物質、特に水分量をはかるのに力を発揮する。

超音波は……前から音をあてて、前にはねかえってくる「エコー」を調べる。影絵とちょっと似ているかな?




使っているものが(超)音波というのがポイントである。音波は、我々が直感的に動きを追えるくらいの「遅いスピードの波」だということに注意する。

光のスピードなんてのは、瞬間的すぎてぼくらには何が起こっているかちっともわからない。しかし音波であれば、日常レベルでその波のさまざまな変化をぼくらは無意識のうちに経験している。

その代表が救急車のサイレンだ。近づくと音が高く、遠ざかると音が低く聞こえる、かの有名なドップラー効果。たかが救急車の40キロくらいの速度をのせるだけで、音がまるで違って聞こえるというのは、音速がさほど早くないから、と考えるとよい(物理の人には怒られそうだが)。

音波というのは、ぼくらが体感できる程度の「動き」があると、さまざまに変化する。

生体内で動いているものといえばなんだろう? 血流である。超音波を血流にぶちあてると、ドップラー効果を利用することで、血液の流速とか流れる方向をはじきだすことができる。



超音波はほかにも便利なことがいっぱいある。画像の解像度がCTやMRIと比べて段違いに高いこと。端触子(検査に使う、超音波を発する機会)がすごく小さくて片手で扱えること。手軽であること。X線を用いないため、放射線と聞くと抵抗がある人や、胎児への影響を心配する妊婦さんなどにも使うことができること……。

まあ超音波ばかりもちあげるのもフェアではないが。ぼくはこの超音波検査がけっこう好きであるな。MRIも好きだけど。



さて、CT, MRI, エコー、いずれも一長一短があり、得意な解析分野がある。医療者はこれらをきちんと使い分けることで、体の中にある病気を少しでもわかりやすく解析しようとする。あの手この手で、体の「断面図」を手に入れる……。

ただ、医者のホンネをいわせてもらえば、「断面図」というのはどこまでいっても断面図なのだ。物体そのものを直接目で見て、触って、遺伝子の抽出でもできたら、そっちの方がわかりやすいに決まっている……。

だから、「内視鏡」が存在するのだ。次回は内視鏡の話をする。