2018年2月9日金曜日

Carcommunication

札幌で聴けるFMラジオのうち、大手の民放は2つあって、それぞれ「Air-G」、「North Wave」という。ほかにもいくつか草の根FM局がある。

朝はこれ、夜はこれと決めているわけではないのだが、適当にチャンネルをいじって、どちらかの局をよく聴いている。

一番ラジオを聴くのは通勤中、車の中だ。エンジンをかけるとまずラジオがかかる。少し聴いてみて、そのときの話題に興味がないとか、なんだか人の声が耳に届いてこないような日には、CDに変える。

このあたり、行動を決めているのは単に「気分」だ。ラジオと音源とどちらが好き、というこだわりはさほどない。



ただ、出張の前後では話がかわってくる。

ぼくは飛行機で出張するとき、空港への移動手段として車を選び、高速道路を走ることが圧倒的に多い。

自分の車で移動する、というと、交通費の計算ができないといって出張先の人にぼやかれたり、帰りの飛行機でビールが飲めないじゃないですかと不思議がられたり、移動中に事故ったら責任の所在が難しくなるといさめられたりと、わりと世の中の人々には納得していただけない。

別に運転がすごく好きなわけではない。免許だってオートマ限定だ。これをいうとよくバカにされるがオートマハラスメント(略して大原)であろう。ぼくは車で移動するのが習慣になってしまっており、そちらのほうが心地よいのだから、しかたがない。

端的にいうとぼくは出張のときにはカーステレオでCDを聴きたい。験担ぎみたいなものなので理屈ではない。

車に置いているCDは全部で12枚くらい。ときどき入れ替える。LOSTAGEのアルバムはどれか1枚必ず含まれている。あとはばらばらで、ピアノジャックだったりレッチリだったりピロウズだったり坂本慎太郎だったりスプラトゥーンのサントラだったりする。ジャンルは特に決まっていない。

これらを、高速道路の上で、聴く。もともとポリシーみたいに掲げていたわけではなかったけれど、今やほとんど習慣となってしまった。

いつどういう理由でこんな習慣ができたのかよく覚えていないのだが、おそらくは過去に、「ひどく緊張した出張の前にCDを聴いてテンションを無理矢理あげていたら仕事がうまくいった」みたいなエピソードがあったのだろうと思う。

エピソードをきちんと覚えていたら、そこそこまとまった「すべらない話」が作れたのかもしれないが、今こうして身についてしまっている日常のゆえんをすべて思い出せるほど、ぼくの脳は高性能ではなかった。





と、ここまでの記事はずいぶん前に書いてあったものだ。なんだか最後のまとまりがなくて、公開しないまま下書き状態で放っておいていた。この間、車内にはZAZEN BOYS「すとーりーず」や、矢野顕子「Soft Landing」などが導入され、ぼくは釧路や東京、仙台などに出張を重ね、相変わらずの暮らしを送っていた。




先日、実家でダンボールを開けたり閉めたりしていたら、懐かしいCDが出てきた。

Smooth ace, SPARTA LOCALS, スネオヘアー, 宇多田ヒカルの初盤……。

UA, Number GirlのライブCD, Rachel Yamagata……。

引っ張り上げられるように蘇った記憶は大学院時代のものだ。

ぼくは薄暗いラボの片隅で、Western blotのメンブレンを破り捨てながら、夜通し実験したり論文を読んだりして、何もかもがうまくいかない日々を送っていた。

ラボに置かれていた古いCDラジカセ(!)に、これらのCDを順番にセットして、盲端になっているトンネルの中でひたすら音楽を聴いていた。

大学院卒業間近の、3月のある日、ラボに置いてあったCDたちをすべて撤去した。すずらんテープで縛ってリュックに入れた。帰りの車の中で、その中の1枚を聴いた。

その1枚というのが、今車に置きっぱなしにしているレッチリの1枚であった。ついさっき、思い出した。残りのCDはこうして実家の納戸の中でダンボールにくるまれて、15年ほど眠っていたことになる。

出張前に聴いて仕事がうまくいったとか、テンションがあがってうれしくなったとか、そんな記憶はあとから、油絵を塗りつぶすように上描きされたものだった。習慣なんてそんなものだ。日常はこうしてできていく。