2018年4月17日火曜日

病理の話(191)

病理医は、臓器を肉眼でみて、顕微鏡でプレパラートをみて、診断をする。

いわゆる、「病理診断」を生業としている。

ただ、これだけを振りかざして戦うのは、少々こころもとない。



「病理診断」自体は、他の武門の医者はなかなか修得できない。

基本的に、病理医だけが修得できる技術だ。

だから病理医である限り、一生、プレパラートをみるための知識や知恵、技術などを学び続ける。

確かに強力な武器ではある。

でも、ぼくは、これに加えて、「病理医以外の医者も獲得できる技術」をちょっと押さえておくことが役に立つだろうな、と思っている。血液データの読み方。CTやMRIの読み方。腫瘍学の基礎。そんなあれこれだ。




ドラクエに例えよう。

病理医を「せんし(戦士)」だとする。

プレパラート技術というのは、ドラクエでいうと「せんししか装備できない、専用装備」。たとえば「おおかなづち」とか「らいじんのけん」のようなものだ。

これに対して、他の医者も用いる技術は、「せんしも含めて多くの職業が使ったり装備できたりする、防具やアクセサリー」に相当する。「ひかりのドレス」とか、「ほしふるうでわ」とかね。




当院に後期研修医が来ているのだが、ぼくはこの「専用装備」と「汎用装備」を両方教えようとしている。

もちろん、研修期間にあれもこれもと詰め込むのはよくないのだが、これからレベルをあげていこうというときに、武器だけで世界にほっぽりだすのはちょっと危ないんじゃないかなと思う。

「はかいのつるぎ」だけ持たせて、体は「たびびとのふく」というのはいかにもアンバランスだろう。ほしふるうでわくらい装備させて、大学に返したい。




そんなことを考えながら、日々研修医と接しているうちに、自分の教えている内容が「専用装備」と「汎用装備」だけではないことに気づいた。

ああ、ぼくは、「せんし」の話ばかりしているわけではないようだな。

「パーティ」の話をしているなあ。

自分で自分の話し方に気づいて、ふーむと考えた。





病理検査室の病理医は「せんし」。

しかし、「せんし」ひとりで旅に出るのはドラクエでいうとライアンくらいのものだ。

彼だってホイミン抜きではあっさり死んでしまう。

この世界、ひとりで戦うのには向いていない。だから、病理医は、パーティを組む。



さて、最も頼りになる相方は誰か?

臨床医……を思い浮かべる人は多いと思う。

もちろん彼らはパーティの相棒だ。というか、「せんし」よりも多彩な攻撃方法をもっている。

一般には、臨床医こそが「ゆうしゃ」だろう。




ただ、病理医の旅において、ドラクエと違うのはここからだ。

病理医が扱う臓器は毎日異なる。

胃、大腸、肝臓、肺、乳腺、甲状腺、子宮、膀胱……。

これらは全て、病理医にとっては「異なるクエスト」である。

クエストが違うと、毎回パーティの先頭に入る臨床医が変わる。

胃のクエストでは消化器内科医や外科医。子宮なら婦人科医。膀胱なら泌尿器科医……。

ぼくらの旅では、「ゆうしゃ」がクエストごとに入れ替わるのである。

 *ゆうしゃ は さっていった!

 *あたらしい ゆうしゃ が なかまになった!



「せんし」はじっと考える。

誰が自分の相棒だろうかと。

パーティに常にいてくれて、真に相棒とすべきなのは……。



ぼくは、それは、臨床検査技師だろうと思う。




ぼくは後期研修医に、さまざまな「武器」や「防具」の話をするが、加えて、自分がパーティをくんでいる「そうりょ」である臨床検査技師の仕事を、かなり教えている。

・標本の作製。

・遺伝子検査の外注。

・検体の保存。

・プレパラートの特性。

・染色。

・細胞診。

ぼくは「せんし」であるが、気づかないうちに、「そうりょ」の魔法の数々を、後期研修医にかなり綿密に教えていた。

研修医にいわれて気づいた。

「市中病院では、こういうことも、病理医が学ばないといけないんですね。大学にいたときは、技師さんがやることはすべて技師さんに任せてしまっていて、まったく医師の側では学びませんでした。」



そうだなあ。

ぼくは、「そうりょ」とか「まほうつかい」を、すごく頼るタイプの「せんし」なんだよなあ……。