直後に、そういえばノートPCのキーボードがぼろぼろだったな、と思って外付けのキーボードを買いたくなった。
いずれもAmazonで探したら、そこそこマシなのが1980円くらいで手に入る。
いずれも40をむかえようという中年が仕事をする上で必要な品である。胸を張っていいものを買えばいい。サンダルは8000円くらい出すとすごくよさそうなのがある。キーボードなら30000円で薄くて無線接続できるやつが手に入る。
けれども、なんだろう、サンダルやキーボード「ごときに」大金を使うことに対するうしろめたさ。
使えば満足するんだから、いいものを買おう、とネットでほいほい金を支払うことに対する抵抗感。
これはあれだ、「FFで中盤のボス相手にエーテルやエリクサーを使うぜいたくさ」といっしょだ。前に誰かがブログに書いてあったのを読んだことがある。これだ、これだ、と腑に落ちた。ぼくもまた、多くの子供達とおなじように、FFでエーテルやエリクサーを使うのが苦手なタイプだったから、あの記事を読んだときにはすごく納得したのだ。
さらにいえば、ぼくは、
「ナイトやにんじゃで戦い続けた方が楽なのに、終盤に役立つからと聞いて、攻撃力のいまいち足りないシーフやかりゅうどを先にせこせこマスターするタイプ」
でもあった。
序盤から中盤まで(具体的には石版を4つ集めて12の武器をすべて開放し終わるくらいまで)は、決して「その時点で最強のジョブ」を選ばず、あくまで、マスターしておくとあとで便利だといわれているジョブを使って苦労して中ボスを倒す。
終盤、パーティーは劇的に強くなる。ものまねしを導入することで、せこせことマスターしたシーフやかりゅうどのアビリティがすべて使えるようになる(ものまねしとすっぴんは、マスターしたジョブの能力を引き継ぎ、複数のアビリティを搭載することができる)。
高速移動に隠し通路発見、にとうりゅう+みだれうち。クイックメテオれんぞくま。
オメガやしんりゅうに手を出さなければ負けることはない。ラスボスだって余裕である。
一番つらかったボスはラスボスではない。中盤、仲間の一人にのりうつっていたおっぱい魔人みたいな中ボスと戦ったときが一番きつかった。ジョブもアイテムも、「将来に備えて」出し惜しみしていたころだからな。
思えばぼくは、FFVをプレイしている間ずっと、MPを節約するためにファイラもブリザラも数えるほどしか撃たなかった。属性にあわせた戦い方ができるようなパーティも組んだ記憶がない。特にザコ戦のときは、ひたすら物理で殴っていた。時間はかかるし、なんなら回復魔法の回数も増えてしまうのだが(それに気づかなかったのはバカだなと思う)、なるべく攻撃魔法を使わずにMPを節約した。突然出てきた中ボス戦でMPが尽きて、エーテルを3個も使うのがいやだった。
節制して、努力して、つらい目にあって、せこせこ集めた実力で、後半のボス戦は楽勝になる。ストーリー的に最もしびれる戦いになるはずのエクスデス戦もほぼ作業である。8回連続攻撃やクイックメテオれんぞくまものまね3連発を黙々と放つ。まあ、快感ではある。
今のぼくは、サンダルとキーボードを「買う」ところまで思い至った分、かつてのFFV少年よりもだいぶマシだ。
当時なら、「まだ履ける、まだ打てる」と、そもそも購入しなかっただろう。使える金の量はMPみたいなものだ。当時の節制にケチをつけるつもりはない。あのころの少年がぼくを見たら、
「そんなところで金使っちゃうの? もったいない、いつか何かに使わなきゃいけなくなるかもしれないのに」
と、少し震えるかもしれない。
悪いな、少年。社会人なんだ、多少の魔法くらいは使わせてもらう。
けれど、今のぼくは、くろまどうしでファイガを連発するとか、しょうかんしでシルドラを連発するほどの気持ちには、なれない。
レベル3までの白魔法と黒魔法でがまんする、あかまどうしを選ぶ。これを先にマスターすれば、あとで「れんぞくま」が使えて便利だから。今はがまんだ。大丈夫、あかまどうしなら通常攻撃もそこそこいける。
まずはジョブレベルアップを優先したい。MPに溺れた刹那の戦い方は選ばない。
こういう話をすると、たまにいわれる。
ファイガくらい普通に撃てばいいじゃん。MPあるんだろ。
なにもわかってねぇなあ。ジョブの根本が理解できていない。
びょうりしは、マスターするまで、物理で殴る。MPの上限値はさほど高くなく、攻撃力も高くはないが、それでも物理で殴る。
Ph.D.をとってもマスターではない(これはギャグです)。
専門医をとってもマスターではない。
指導医だってもってる。評議員にもなる。けれどマスターではない。
だったらびょうりしは物理で殴る。
そういうジョブなのだ。MPは節約してしまう。これはもう染みついてしまっているのだ。
マスターとかラスボスという概念が存在しないゲームかもしれないが。