異常増殖+不死化+異常分化+浸潤。
さいしょの2つで再現なく増えて、3つ目でチンピラ感を出し、4つ目で正常組織のスキマに入り込んだり、破壊したりしてしまうのが、がんである。
ここまでの「がんの話」、4回で、がんの性質四天王とでも呼ぶべきこれらの解説は終わった。
しかし、現実にがん診療をすると、ほかにも知っておくべきがんの特徴というものがある。
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がんは、英語で cancer 。キャンサー。古い言葉で、カニという意味がある。ギリシャ・ローマの時代からあった言葉らしい。なぜそれがわかるかというと、十二星座のかに座が「CANCER」という表記だからだ。今、聖闘士星矢のコアなファンはうなずいていることだろう。星座を見ていたころから、人はカニのことをキャンサーと呼んでいた。
そして、そのころ、がんにはキャンサーという名前が与えられた。なぜ、当時の人は、がんをカニに見立てたのだろう。
それにはおそらく、2つの理由がある。
1つは、がんが「浸潤する」ということ。がんが、正常組織のスキマに入り込むように、激しく足を伸ばす様子が、カニの足のように見えたのではないか。
そしてもう1つは、がんが「硬い」ということだ。手術のなかった時代であっても、一部のがんは、体表から触れることができた。乳がんなどがいい例だ。ギリシャ・ローマの時代には平均寿命は今より短かったろうが、発症年齢の比較的早い乳がんであれば、当時もある程度の患者はいたに違いない。
一部の乳がんは、硬い。
そして、浸潤して、足を伸ばす。
昔の人は、「硬くて足を伸ばす魔物……カニの魔物が、ちぶさにとりついた」と考えたのかもしれない。
最近の研究では、
「がん細胞は、浸潤する先々で、自分の周りに『足場』を作り上げて、自分がぬくぬくと生きていける環境を作る」
ということがわかってきた。この「足場」というのは、好き勝手に増えて浸潤していくがん細胞に栄養を与える、アジトのような存在であるらしい。足場は線維によってできており、この線維が硬さの原因となる。
がん細胞によっては、足場とかアジトみたいなものをあまり必要としない場合もあるため、がんが全て硬いわけではない(こういう例外は、何にでもある)。
しかし、
「がんが、ある程度硬くなるものだ、周囲に線維を伴うものだ」
という認識が進んだことで、近年の画像診断学は長足の進歩を遂げた。がん細胞だけではなく、がん細胞の作り上げる「足場」を見つけることで、がんをも見つけてしまおうという試みが、CT, MRI, 内視鏡, 超音波などの画像診断においては、今まさに主流となっているのである。
(※以上のことは、放射線科医・病理医であればまず納得して頂けるのだが、医学生、さらには一部の医療者でさえ、知らない場合がある。がんの病理は、まとめて勉強する機会が思いのほか少ない)
がんとは。
異常増殖+不死化+異常分化+浸潤。そして、基本的に、線維性間質の誘導をする。
ここまでで、外堀も内堀も埋め立てた。次回はいよいよ、がんの「本丸」をあばくことになる。
続きます。