2020年4月2日木曜日

病理の話(430) ペラッペラの具体例

たとえばあなたがこれから、手元にある「みかん」を顕微鏡で見ようとおもったとき、みかんをそのまま手で掴んで顕微鏡に載せようと思っても、乗らない。

でかいからだ。


レンズの下には(レンズの種類にもよるが)スキマがあまりない。試しに測ってみたけど、2 cmに満たないくらいだ。

そこで、あなたはみかんをむくことにする。ちょっと減量させよう。

ひとふさとる。

これなら、対物レンズの下に入るだろう。あっ、でもまだちょっとでかいかな……。

そこで、みかんのひとふさの、薄皮をさらにむいて、中に詰まっている「涙のツブのような形をした、なんかちっちゃい実みたいなやつ(あれなんていうの?)」をひとつ取り出す。

これなら対物レンズの下に入るぜ!

ところがそれを置こうと思うと下に落っこちてしまうのだった。なんでや。


穴があるからや。

レンズの真下に穴がある。この穴の下からライトがあたる。

けっきょく、穴を橋渡しするような「ガラスプレパラート」の上に、みかんのつぶをのっけてみることになる。

よし、これで、みかんのツブをガラスにのっけて、あとは見るだけだ!

顕微鏡を覗く……。

すると、下から当たった光がツブにあたって……完全にシルエットになっている。

涙滴状のシルエットだ。ぴちょんくんクイズです。

これでは、なにがなにやらわからない。




病理診断で用いる顕微鏡は、「透過光型」である。下から光をあてて、上から覗き込む。

これだと観察する試料はふつうシルエットになってしまうのだ。中身がまるで観察できない。

上から光をあてて、反射光をみればいいじゃん、と思いがちである。しかし、新聞の文字や虫の羽をみるならばともかく、細胞を観察しようと思うと、反射光では光量が足りなくて、細かいところをうまく見られない。

下からの透過光で強くライトアップしないと見えない。

そこで……。




「みかんのツブ」ですらでかすぎる、というか、分厚すぎるのだ。もっとぺらっぺらに薄くすればいい。「向こうが透けて見えるくらいに」。

どれくらい薄くするかというと……。

4μmくらい。

髪の毛の細さがだいたい50~80 μmくらいとグーグルに書いてあった。

だから髪の毛よりもはるかにうすい。

細胞の大きさは、赤血球で6~8 μmくらい、皮膚の最表層付近にある有核扁平上皮がだいたい20 μmとかそんなもんかな(これらはググってないので多少ずれてるかもしれません)。

すなわち、レンズの下に置く試料を4 μmの厚さにするということは、ほとんどの細胞をまっぷたつにできるくらいうすくする、ということだ。

そこまでしてはじめて、「透過光で細胞の輪郭が観察できる」ということになる。



ちなみにこの「組織をペラッペラに切る」ことを薄切(はくせつ)という。

かんなのオバケみたいなミクロトームという機械を使い、訓練を受けた臨床検査技師が組織をペラペラに切る。実はぼくはこのミクロトームがうまく使えない。技師さんがいないとぼくは病理診断なんてできないのである。

かんなのオバケだぞ。すごいんだかんな(ギャグ)。