2022年9月26日月曜日

病理の話(699) マリオとルイージくらいの違い

体の中にある細胞には、ほんとうにいろいろな種類があるのだけれど、これを

ざっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっくりと

2種類にわけることができる。



「上皮」と「非上皮」だ。



上皮、すなわち「上の皮」と書く細胞は、その名のとおり、体の表面を覆っている。たとえば皮膚をつくりあげているメインの細胞は、扁平上皮(へんぺいじょうひ)と呼ばれる細胞だ。国道にたとえると、アスファルトの部分が扁平上皮である。なぜ国道?


さて、上皮イコール皮膚の細胞かというと、そうではない。胃、小腸、大腸などの粘膜面(食べ物が通る面)を覆っている細胞もまた上皮だ。これらは腺上皮(せんじょうひ)と呼ばれる。国道にたとえると、トンネルに入ったときのアスファルトやトンネルの壁の塗装の部分が腺上皮である。なぜ国道?


ほかにも、腎臓から膀胱に尿が運ばれていくルートを「尿管」というのだが、この尿管というトンネルの内側は尿路上皮(にょうろじょうひ)に覆われている。


上皮がある場所に共通するのは、「そのまま道をたどっていくと、体の外にたどりつく」ということだ。胃腸を通るたべものは、そのまますすんでいくと肛門から外に出ていくだろう。腎臓で作られた尿は、尿管を通り、膀胱を経由し、尿道を通って、やはり外に出ていく。つまりトンネルを突き進んでいくとかならず国道に出るということだ。なぜ国道?


体の外にはさまざまなバイキンやらウイルスやらが住んでいる。隕石が落ちてきたり、光が降りそそいだりもする。これらが体内に侵入するといろいろと問題がある。だから、外と面する部分では、アスファルト的に体を守ってくれる細胞が必要で、その役割を果たすのが「上皮」である。


今まで挙げてきたように、上皮にもいろいろ種類があって、扁平上皮、腺上皮、尿路上皮など多彩である。これらはすべて形が違うし働き方も違うのだけれど、上記の「アスファルト的防御」を果たすために共通の仕組みをかねそなえている。それが何かと言うと、

「細胞がしっかりしていて、細胞同士ががっちりくっつけること」

なのだ。

上皮が、外からやってくる刺激にいちいちヘロヘロ負けていては困る。物理的な刺激や、ケミカルな刺激に、細胞が右往左往していてはだめだ。したがって、数ある上皮細胞はすべて、細胞の中に「サイトケラチン」と呼ばれる強靱な骨格があり、かつ、上皮細胞同士はまるでジグソーパズルやレゴのようにがっちり周囲の細胞と結合する。

骨格と、結合性。このふたつが上皮細胞に固有の性質なのである。




アスファルト(上皮)以外の細胞はどうかというと……たとえば筋肉とか神経とか脂肪のような、表面には出てこないが大事な機能を持っている細胞たちのことを考えると、これらは、「サイトケラチン」という細胞骨格をもたないし、細胞同士が結合する強さも上皮ほど強くない。たとえば筋肉の細胞は、骨格によってしっかり硬くあることよりも、伸び縮みして力を発揮することのほうが大事だし、隣同士のすべての細胞とぴったりひっついてスキマを埋めることよりも、決まった2箇所を引き寄せるはたらきのほうが根本的である。

骨格は上皮ほど強くなく、結合性も上皮ほどではない。これらは筋肉、神経、脂肪、血球、線維芽細胞など、多くの「非上皮」に共通するのだ。






というわけで、体の中の細胞は「上皮」か「非上皮」かのどちらかに分けられるのだが、じつは非上皮の中に、「ちょっと上皮っぽい」細胞が混じっている。

中皮細胞という。

中! じゃあ下皮細胞もあるの? いや、下皮はない。内皮はあるのだが。

中皮細胞はどこにあるかというと……お腹のうちがわ、「腹膜」を覆っている。あるいは、胃や腸の外側……食べ物が通る側ではなく、うーん、そうだな、なんて言ったらいいかな、あっそうだ、

「外科医がお腹をあけて、胃を採ろうと思ってヒョイと手で持ち上げたときに、外科医の手が触れる側」

を覆っている。



腹膜とか、臓器の外側というのは、いちおう「覆い」ではあるので、それなりにぴったりと細胞同士がくっついている必要がある。しかし、どこまで歩いていっても、上皮のある場所とは違って体外につながることはない。地下帝国みたいなものだ。お腹の中は無菌状態で、物理的な刺激もくわわることなく、光だって当たらないから、強い刺激を受ける機会はない。

だから上皮ほど細胞骨格は強くなくていいし、上皮ほど結合性も強くなくていいのである。



中皮細胞を顕微鏡でながめると、(プロの病理医でもない限り)上皮細胞と見間違えてしまうことが多い。基本的に中皮は上皮とそっくりで、形だけではなかなか区別がつかない。細胞骨格(サイトケラチン)も持っているので、なあんだ、これほとんど上皮じゃん、と思ってしまうこともある。

しかし、よくよく細胞をしらべてみると、モノホンの上皮ほどには細胞骨格が強靱ではないし、細胞の結合性も少し弱いし、ほかにもちょっとずつ違いがある。上皮と中皮はマリオとルイージくらい違う。昔のファミコンだとドットレベルではほぼ違いがなく、色で見分けるしかない(ゲームボーイだと無理)。しかし、Nintendo Switchくらいきれいに描き分けると明らかに別モノである。ただ、マリオとクッパ、マリオとピーチ姫の違いとくらべると、マリオとルイージの違いは微々たるものである。それくらいの差で、人体は細胞の配置を使い分けている。