2022年10月4日火曜日

病理の話(702) あるある探検隊

「とても難しい病理診断」というのが年に何度かある。


細胞を見てすぐ、「Aという特徴があり、Bという特徴がないので、□□病です」みたいに、ビシッと診断がつくのが理想だ。ちょっと表にしてみよう。


      特徴A    特徴B

□□病   ある!    ない

○○病   ない     ある!


すべての病気がこうやって分けられるなら診断はシンプルだ。

しかし、実際に病理診断をしていると、特徴Aも特徴Bもかねそなえた細胞が観察される場合があるので、困る。



例をあげよう。

ある細胞が、CEAというタンパク質をもっていたら、それはきっと「腺(せん)上皮」と呼ばれるタイプ。

また、CK5/6というタンパク質を持っていたら、それはおそらく「扁平(へんぺい)上皮」と呼ばれるタイプである。

しかし、ときに、CEAもCK5/6も両方持っている細胞というのにお目にかかる。この場合、どう考えるべきか?


腺上皮でもあり扁平上皮でもあるわけだから、「腺扁平上皮」?

……答えは……YESかもしれないし、NOかもしれない。

CEAとCK5/6を両方持つ細胞が、腺上皮と扁平上皮の「あいのこ」であることはある。しかし、ほかにもパターンがある。

「たまたまCEAを持ってしまった扁平上皮」

とか。

あるいは、「腺上皮としても扁平上皮としても中途半端な、まだ何にもなれていない未熟な細胞」のこともある。話がむずかしい。


これ……たとえが難しいんだけど。

「女装をした男性」と、「男性器と女性器を両方もっている人」と、「見た目は男性だけど心は女性でありしぐさも女性」とは全部違うじゃないですか。

これらを、「ちんちんがあれば男」みたいに言うのってすごく雑じゃないですか。

それとちょっと似てると思うんだよな。「ある」「なし」だけで判定できるほど病理診断もあまくない。



なお、そんなんどっちでもええやん、とはならない。なぜなら、腺上皮の性質をもつ「がん」と、扁平上皮の性質をもつ「がん」では、効く抗がん剤の種類が違ったり、放射線治療の効果が違ったりするからである。

病理医が趣味で分けている話ではない。分類することで治療方針が変わるから、「どっちつかずだなあ」では困る。



(特に若い病理医に多いのだが)、「細胞がこの性質を示しているのですから、ぜったいこの診断ですよ」みたいなことを言う人がいる。「Aがある」なら「○○である」と確信するタイプの診断だ。しかしそれは危険である。

・あいのこ

・どっちつかず

・だまされ

など、診断が難しくなるパターンは山ほどある。検査すりゃわかるんでしょ、という言葉が突き刺さってくる。そう簡単じゃないのだ。