国語辞典とか漢和辞典を先頭から読みあさっていくのは楽しいが、たいてい「さ」のあたりで寝てしまっていた。辞典編纂をなさっている飯間さんなんてのは、すごい。たとえばぼくが子供の頃、彼のセミナーか何かを聞く機会があったら、強烈にあこがれただろう。
分厚くて知恵のうまみが凝縮されているような本をみるとテンションが上がる。結局、買ったところで「通読」までできるのはほんの一部にすぎないが、ことわざ辞典とか、季語の辞典とか、ほかにも大百科とか図展の類いはとても楽しかった。こども図鑑がいっぱい並んでいる図書館はパラダイスだった。どれもこれも、最後まで読み通したことはなかったが。
最近、さまざまな本や教科書に触れる機会が増えてきたが、一般的な辞書や図鑑のたぐいをひもとく機会は激減した。しかし、たまたま先日、札幌駅の上にある本屋の「こども用の図鑑」の棚で立ち止まり、立ち読みをしてみたところ、けっこうな衝撃をうけた。
絵が細かい。書き込みが多い。
ポップな書体で「人体」と書かれた、小学生用の図鑑。肝臓の小葉構造やグリソン鞘における動脈・門脈・胆管など、肝臓専門医がようやく勉強するレベルのミクロの世界が、CGをふんだんに用いた美麗なフルカラーイラストで、見開きいっぱいに豪華に描かれている。ぼくは愕然とした。専門書のイラストよりもはるかに色数が多く、表現は3次元的で、込みいった見づらさはないのに必要な情報がすべて書かれている。
そして、安い。専門書の10分の1くらいの値段ではないか。
自分がこれまで書いてきた、病理の解説用のイラストの、なんと陳腐であったことか。
ぼくが今まで頼りにしてきた教科書の図版なんて、小学生用の図鑑に比べたら足下にも及ばないのだ……。
ぼくは何かを背負っているわけではない。誰かを代弁できる立場でもない。でも、なんだか、くやしく、あこがれてしまった。
ぼくは、自分の仕事を、「子供に伝えるほどの努力」を、してきたのだろうか?
先日、子供の頃に読みふけった「大図展 VIEW」という図鑑を、古本として購入した。だいぶ古い本だ。当時は写真ばかり眺めていた。今になって読み返してみると、本の最初のあたりには膨大な量の「文章」が載っている。文章のくだりは昔は難しくて読めなかったから、ほとんど記憶にない。どれどれ、誰が書いているのかな、と目を通して驚いた。
巻頭言は小松左京である。
トピックスには医療の項目もあった。「がん」のところでは、次世代の新技術と称して「RI検査(つまりは核医学だ)」や、「PET」の文字が躍っている。がん遺伝子、がんの特効薬についての記載もある。
うーん。すごいな。
隔世の感はあるし、たしかに医療はこの30年で大幅に進歩したんだなあと思うが、その「見せ方」は今と比べても全く遜色がない。
ぼくはもうすこし辞書や辞典、図鑑を読むべきなのかもしれない。