「Wikipedia(日本語版)は、けっこうあやしいことが書いてある」
これ、少なくともツイッターではよく知られた話だ。
でもぼくはWikipediaの「素人が紛れ込んで書いててもわかんないくらいに体裁と構文が整えられた、それっぽい文章」というのがきらいではないのだ。
「読まずにふぁぼる半可通」があたりまえのツイッタランドに生きていると、日本語版Wikipediaのあやしさなんてもう、ぜんぜん許容範囲である。
英語版のほうがしっかりしているかどうかは、ぼくの英語力がしっかりしていないので、わからない。
「下位文化、サブカルチャー (subculture) とは、ある社会で支配的な文化の中で異なった行動をし、しばしば独自の信条を持つ人々の独特な文化である。『サブカル』と略されることが多い。」
サブカルチャー、を調べたらこのように書いてあった。
ぼくは、病理医ってサブカルっぽさがすごいんじゃないのかな、という文脈で、サブカルという聞き慣れた言葉を、あらためて調べ直そうとしていた。
「1980年代サブカルチャーに共通していえることはマイナーな趣味であったということであり、この段階で既に本来のサブカルチャーの持っていたエスニック・マイノリティという要素は失われていた。確かに幾つかの要素は公序良俗に反すると見なされたという点で既存の価値観に反抗していたが、それらは1960年代のサブカルチャーが持っていた公民権運動や反戦運動などの政治的ベクトルとは無縁であった。もともと社会学におけるサブカルチャーという用語は若者文化をも含んでいたが、エスニック・マイノリティという概念の無い1980年代の日本においては少数のサークルによる若者文化こそがサブカルチャーとなっていた。この含意の転回には日本における民族問題意識の希薄さ以外にも、サブカルチャーという概念の輸入が社会学者ではなく、ニュー・アカデミズムの流行に乗ったディレッタント(英、伊: dilettante。好事家。学者や専門家よりも気楽に素人として興味を持つ者)によって行われたことも関連している。研究者ではない当時の若者たちにとっては学術的な正確さよりも、サブカルチャーという言葉の持つ、差異化における「自分たちはその他大勢とは違う」というニュアンスこそが重要であったともいえる。」
好事家(こうずか)。
そうかあ。
学者や専門家よりも、気楽に素人として興味を持つ者。
なるほどなあ、じゃあ、病理医がサブカルだなんて言ったら怒られるかもなあ。
それにしても、この項目、書きっぷりが、クソサブカルくせぇなあ。
ぼくの、「病理医ってサブカルなんじゃね」という気づきは、「治療して患者さんに感謝されたり、救急で一刻一秒を争いながら重症患者の服にハサミを入れて電気ショックを与えたりする医者こそが、メインストリーム、本道である」という、世間が共有するイメージに対しての、なんというか、あこがれというか、屈曲した嫉妬というか、そういったものに由来しているのだと思う。
「病理医は、治療もしないし日も当たらないけど、それをむしろ誇ったり、スカしたりしている」
これって、なんだかサブカルっぽいな、くらいのイメージだった。
けど、サブカルチャーという言葉をきちんと(?)調べると、なんか安易にサブカルって言葉を使うのもどうかな、という気持ちになってくる。
「近年では、教養そのものが揺らいでおり、従来ハイカルチャーを支えてきた知識人も大衆文化やオタク文化に注目しているのが現状である。趣味・嗜好の多様化・細分化や価値観の転倒により、従来サブカルチャーと見られていたものが一般に広く評価されるようになったり、ハイカルチャーの一部であったものがサブカルチャーとして台頭するという逆転現象も見られるようになっている。例えばかつては、歴史や古典文学について最低限の知識を持つことは当然で、そうした知識に精通することはハイカルチャーと考えられていた。しかし、近年では知らないことを恥じるどころか、歴史や古典文学についてある程度の知識を得ることさえもオタク趣味の一つとみなす傾向が指摘されている(とくに日本文学や日本史にこの傾向が強い。[要出典])このように、ハイカルチャーとサブカルチャーの境界、色分けは曖昧となってきている。」
ぼくこの「要出典」、大好き。
「一般にサブカルチャーは、個々の主観によって自立して成立する行動様式の理念として昇華した、『顔の見える文化』だといえる。とはいえこのサブカルチャーは『顔の見えない』側面も持っていることがある。」
「も」「ことがある」
ああ、うん、よく使うなあ、この言い回し。
そうか、病理医ってサブカルじゃね? の前に、病理医ってWikipediaに似てね? を検証すべきだったのかもしれないし、うん、病理医という広い主語を使うとまたツイッタランドで怒られるだろうなあとか、そう言ったことが次から次へと気になりだしている。