医療系のドラマとか小説の惹句に「ヒューマンドラマ!」と書いてあるとその時点でもうなんかすごくあーあって思ってしまう(けど読むけど)。
ヒューマンドラマって何だよって思うからだ。
ヒューマンじゃないドラマを考えるのは難しい。
動物奇想天外みたいに、動物を主役にしたらアニマルドラマか? 結局、アニマルたちにヒト語をしゃべらせて、擬人化した感情をアフレコして、あるいはその動物と関わる人たち、飼育員とか飼い主とかの言葉を拾い挙げるわけだし。
人工知能が主役のスペースオペラか? R2-D2だってあれもうほとんどヒトだから。しゃべり方がカタコトなだけだから。
初音ミクは「ぼく」を歌うし。
ヒューマニティを除外したドラマなんてないのだ。
いや、まあ、言葉遊びの揚げ足取りって言われるかもしれないけれど……。
ヒューマンドラマ、とうたわれた時点で、「ほっこり」「じわり」「しみじみ」、あるいは「ドロドロ」「ジタバタ」「グチャグチャ」、ひらがな系かカタカナ系かはともかく、なーんかもういいかなって気分になってしまうのだから、しょうがない。
一度原稿仕事でお世話になった編集者から、「医療をめぐる現状と対比しながら、医療にまつわるブックガイドをお願いします」という依頼が来た。
医療を題材にした本とかドラマ、あまり読んでいない。
ノンフィクションの方が読んでいるかもしれない。
ぱっとは思い付かなかった。マンガが数冊浮かんだ。
小説かあ……。昔読んだ小説で、何か、ひとにおすすめできそうな本があったかなあ。
思い出すきっかけが欲しくて、医療系のキーワードをいくつかGoogleにぶちこんでみた。
出てきたことばは「医療ミステリー」だとか「医療サスペンス」。まあそうだろうな、ありとあらゆるジャンルが、ミステリーとかサスペンスになりうる。
さらに、「ヒューマンドラマ」、「問題作」、「意欲作」。
うーん。医療である必要がないな。
悩んだ末にいくつかの本をピックアップした。これをおすすめしたら、某誌の読者は興味をもってこの本を読んでくれるだろうか、ということを気にかけながら、再読に入る。
読みながら、ああ、ぼくはどうも、「フィクションから得た感性を用いて、現実で起きている医療を語る」ということを頻繁にやっているなあ、ということに気づいた。
さらに。
ぼくが医療を語る上で根幹としている創作物のほとんどが、「必ずしも医療現場を題材にしていない」。
少し驚いた。
ときにはSF。ときには歴史小説。工学系であったり、青春小説であったり、ありとあらゆるジャンルの本から少しずつわきあがってきたインプレッションが、医療に対する目を開かせている。
結局、現実の医療も、虚構の叙事詩も、なにもかもがヒューマンドラマだからなあ。
ジャンルなんて関係なく、優れた創作物は、医療を思うときにスパイスになりうるんだ。
自分の子供にサッカーを好きになって欲しいと思った親が、キャプテン翼を読ませる。
自分の子供に東大に入って欲しいと願った親が、ドラゴン桜を読ませる。
自分の子供に医者になって欲しいと切望する親が、医療小説を読ませる。
いまどきそんな短絡的な教育もないだろうが……。ぼくは心のどこかに、「ジャンル系」を読めばそのジャンルについての思索が深まるだろう、という、根拠のない思い込みを持っていた。
なんかあれだな、医療を考えるために本を読む、ってのつまらないな。
わかんないけど本を読んでたら、医療についても思いがふくらんだ、くらいでいいんじゃないかな……。
……それじゃ原稿にならないかな?
いや、うん、原稿にしよう。ぶつぶつ、キョロキョロして、じっくり、ガッと書く。