2017年11月28日火曜日

病理の話(144) ミュージックビデオ的病理教育の是非

「クリエイション クリエイション クリエイション

粘膜と

クリエイション クリエイション クリエイション

間質が

毎回パラクライン・オートクライン・ドンピシャのタイミングでパン!『はいGUT』が聞こえるような」


と、岡崎体育に歌ってもらえばいいのだ。





細胞だけを眺めていても病理診断はできない。

人体の中で機能をもち、なんらかの役割を果たしている臓器、器官。これらを観察する上では、「役者」としての細胞だけではなく、「背景」とか「大道具」とか「小道具」にあたる間質(かんしつ)を見極めるとよい。

そう、ぼくらがみているのは細胞だけではない。




HE染色と呼ばれる汎的な染め物は、正常の細胞やがん細胞の、「核」という構造を染め抜くのに適している。核と細胞質、すなわち人に例えるならばアタマとカラダを見分けるのに向いている。

だから、まずは主役や脇役を、HE染色で十分に評価しよう。

そして、そこまでで病理診断を終えてしまってはもったいない。

次に、別の染色を用いて、スタジオ、セット、あるいはロケ地の風景などをがっちり評価する。

一流のカメラマンが、撮る対象に合わせてレンズを入れ替えるように。

ターゲットにあわせて染色を変えていくことが、切れ味のある診断をする上でとても役に立つ。




PAS染色で中性粘液や糖をハイライト。

Alcian-blue染色で酸性粘液を浮き上がらせて評価する。

細胞が作り出す粘液は、正しく作る分には人の役に立つが、過剰であったり使いどころを間違っていたりするならば、きっとその「生み出し手」は何か悪いことをたくらんでいるのだ、と推測することができる。



Gitter染色で細網線維を浮き上がらせ、Azan染色で膠原線維の分布を把握する。EVG染色でも膠原線維と弾性線維の両者を染め分けることが可能だ。

そこにある線維が、善良な細胞の足場であるのか、悪人たちのアジトを作るバリケードであるのかを見極めることで、悪者たちが作り上げた悪の根城を詳細に評価することもできる。



染色が増えればそれだけ作業は煩雑になる。臨床医たちも、マニアックすぎる染色の評価をいちいち覚えてはいられない。

しかしだ。

カメラマンは多くのレンズを使うけれど、我々写真のシロートは、カメラマンによって選び抜かれた構図やピントの場所、色彩などを、ごたごた深いことを考えずとも、感じて、よいと思うことができる。

病理医だって一緒だ。そうあるぺきなのだ。



岡崎体育の何が偉いかというと、「PV」が音楽と映像のドンピシャミックスであることをメタにとらえた作品を世に送り出したことではないかと思っている。

彼はカメラマンの気持ちも、クリエイターの気持ちも持ち合わせて、それでいてミュージシャンである。

さあ、病理を前にして、我々はどれくらいの気持ちでいるべきだろうか。