来年以降、研修医とか臨床医が今まで以上に病理の部屋に勉強しにくることが決まり、今、病理検査室の模様替えをしている。
人があんまり多くなるとデスクが足りないのだ。だから、いらないものを整理したり、棚などを配置換えして、むりやりデスクを1個増やしてみた。
新しい椅子もひとつ注文した。
この椅子がコクヨのちょっとしっかりしたやつで、とても座りやすそうなやつなのだ。
それに対して、ぼくの座っている椅子はもうかれこれ30年以上使われているのではないかという古いやつ。
誰もみていないときに、こっそり、新しい研修医用の椅子をぼくのところに持ってきてみた。
ベストフィットである!
いいなあこれ。もらっちゃおう。
いちおうボスに確認してみた。「いいよいいよ 使いなよ」。おすみつきである。
うきうき。
でも何かおちつかない。良心がとがめるから、とかではなく、単純に座面が少し高くて、一番下まで下げてもデスクに対して少し首が下がる体制になってしまう。
これだと……。PC入力時に、首が少し下を向いてしまうのだ。
長年のPC作業で頚椎症もちのぼくにはちと厳しい。
やっぱりこの椅子、返そうかなあ。新しく来る研修医も、きっと、新しい椅子のほうがいいだろうし。
急に善人に戻る。椅子を元の場所にもどそうと思い、穴熊となっているぼくのデスク周りから椅子を運ぶために、エイヤッと持ち上げて……。
腰を痛めて今にいたる。ぼくもうすっかりおじいちゃんだな。それもいじわるじいさんのほう。たくらんで、裏目に出て、痛い目にあうほう。ちっきしょう。
ところで。
昔話に出てくる「おじいさん、おばあさん」というのは、今でいうとおそらく40代後半とか50代であったのではないかと思われる。
当時、平均寿命が短い。出産年齢も若かっただろう。「翁」というのは、必ずしも、現代の我々が想像するような高齢のおじいさんではなかったのではないか、と思う。
また、例えばこぶとりじいさんとか、浦島太郎とか、いくつかの昔話には、実際の疾病をモデルにしたのだろうな、というものがある。こぶとりじいさんのモデルになった病気は、40代でかかりやすい。もちろん、おじいさんがかかってもおかしくはない病気なのだが、「こぶとりじいさん」は今で言えば「こぶとりおじさん」くらいの年齢なのではないか、と思う。
すなわち、今日のぼくがもし室町時代あたりに生きていたら、「椅子じいさん」などとタイトルをつけられて、「いじわるじいさん 腰ひねる」などと後世のこどもたちにわらべうたにされてしまっていたかもしれないのだ。
人間、まじめに生きていかなければだめなのである。とっぴんぱらりのぷう。