「医療分野で新しく商売をしたい人に向けて書かれたコンサル資料」を見る機会があった。こちとら医療現場で古典的な商売をしている人であるから、資料の対象読者ではないけれど、おもしろそうなのでほくほくと読んでみた。そしてやっぱり笑ってしまった。
まず、
・世の中の動きがすごい速い! ぼーっとしてると置いていかれる
という雰囲気が、資料の全編にちりばめられていてすごい。「今日のこの資料に書いている内容を、ひとつでも知らなかったのならば、危うく時代遅れになるところだったんですよ!」みたいなメッセージ性が強い。徹底的に危機感を煽ってくる。あせってページをめくらないといけない。細かいところを読まずにすっ飛ばしたくなる。でもそこでぐっとがまんして、実際に何が書いてあるかを精読していく。
すると、気づく。仮にも医療ジャンルの話であるにもかかわらず、
・医療の専門的な情報は一切出てこない
ということに。
このへんで、あれっおかしいな、という気持ちになる。医療で商売したい人向けなのにこんなに医療の知識が出てこなくてよいのかな?
……でもこれはよく考えたら当たり前のことかもしれない。医療業界で新しく商売を始めたい人が見るべきは、医療者(現場の専門家)の手からあふれてくる部分、すなわち医療者だけでは解決できない部分であろう。医療者がとっくに知ってわかって対応しているところに商機はない。医療者の手に余る部分にこそ、新たに商売が入り込む隙がある。
……だからといって、ここまで専門情報をないがしろにされているのも不自然だと思うけどなあ……くらいの不信感を持ったまま読み進めていく。すると、これは資料作成者のクセなのかもしれないけれど、
・二言目にはすぐ医療従事者の仕事を奪おうとする
ので笑ってしまった。「これまでの医療に替わる技術です」「時代は一気に変わり医療現場の風景も大変革します」「従来のように人がちまちま診断するシステムは長続きしないでしょう」「入れ替わるのはあっという間です」。いつのまにか、現場の人の手からあふれるどころか現場の人ごと取り替えてしまうのだ。
この部分を自動化すると患者にも国民にも医療者にもいいことがあるぞ。
この部分に外部から人を入れることで医療業界全体が楽になるし得をするぞ。
まあその流れ自体はいいことだと思う。冷蔵庫が市販されたときに、これまで店や道ばたで氷を打っていた氷屋さんはどんどん廃業したが、国民にとっては便利になるほうが圧倒的によかった。それと一緒といえば一緒である。
しかし、ここまでの話をまとめると、やはり少しおかしいなと感じてしまう。要はこの資料は、
・専門的な知識の話をしないまま、仕事だけ奪うススメ
になってしまっているのだ。ぼくらの仕事が将来なくなるかもしれないってところはしょうがないとしても、代わりに入ってくる人たちが現場の知識ゼロってのはよくないんじゃないの?
でもまあコンサルタントにとっては、新しい商機を探す人たちにそれっぽいことをしゃべってコンサルタント料金をとれればそこで仕事は完結するわけで、「仕事が入れ替わりそうな雰囲気」を定期的に世に出せれば十分であり、実際に現場でどういうニーズが生まれどういう困難が生じているのかにはぶっちゃけ興味もないのだろう。
そう考えると極めて優れた資料なんだろうな。このコンサル、いいスーツ着てるんだろうな。なんか腹立つな。