2017年1月31日火曜日

病理の話(43)

※今回の記事は、友人の病理医からのメールに対するぼくの返信です。友人の用件は、「バーチャルスライド(VS)システム」をどう活用するか、という話でした。

VSとは、プレパラートを強拡大ですべてスキャンし、PCに取り込んで、まるで顕微鏡で見ているかのようにモニタ上で動かすことができるシステムです。拡大・縮小思いのままで、PCさえあればどんな場所でもディスカッションができます。プレパラート1枚あたりの容量が数百メガあるため、テラバイトレベルのサーバーが必要となりますが、今後急速に普及していくことと思われます。


---(以降、ぼくの返事)---



そうですか、○○社のVSをお使いなのはよいですね。

札幌拡大内視鏡研究会などで使うのもいいかなあとは思うのですが、
○○○(とある出版物)に導入できたら時代が変わるでしょう。
ただ、現状ではID管理にまつわる諸問題がありますので、
出版物との紐付けには十分に注意しなければいけません。

そして、そこを注意できるのはたぶん我々の世代です。
やるべきでしょうねえ。



ちょっと話を変えます。



最近考えていたことなのですが、我々病理診断医は「分類」を行うのが主業務です。
分類とは組織型に限らず、深達度にしても、脈管侵襲にしても、
粘液形質にしても、あるいは遺伝子変異の形態にしても、すべてを含みます。

この頃は、「そもそも分類学とは何なのか」というのを勉強しています。

分類学とは
(1)「主に形態を用いて、クラスタを分けるやり方(形態分類思考)」
(2)「主に遺伝子などを用いて、系統樹を書くやり方(系統樹思考)」
(3)「主に統計学を用いて、実臨床でのインパクトを元に対応をわけるやり方(統計思考)」
の3本柱で行われるべきものなのかなあと思っています。


病理医が大学院で研究する遺伝子・タンパク・エピゲノム修飾などは
分類をより適正化するため、治療のターゲットを選ぶためなどいろいろな理由を添えられていますが、
これは実は(2)「系統樹思考」を補完する手段です。

遺伝子やタンパクなどの変異がもたらす疾病の姿というのは、
形態だけではなく、時間情報、さらには治療のターゲットとしてのとっかかりなど
さまざまな「縦軸」を与えてくれます。
遺伝子検索ができなかった時代が形態だけの2次元思考だったとすると、
遺伝子解析の登場により、我々は3次元の解析ができるようになった、と考えます。

また、臨床医が偉くなるときに必要なEvidenceの構築は、
(3)を補完する手段です。
分類が机上の空論で終わらないために、
さらには、数ある分類のどれがもっとも仮説として優れているのかを検証するために、
統計こそは最高の武器となります。


我々が医療界でのし上がっていこうと思ったら、
(2)「系統樹思考」と(3)「統計思考」とをきちんと勉強していかなければいけません。

先生は大学院研究において(2)系統樹を書くための技術や思考方法を身につけられていると思います。
さらに、臨床医にまじってがんがん仕事をすることで、
(3)統計思考もきちんと育てていらっしゃいます。

そして。

最初の矢である(1)「形態分類思考」をないがしろにしてはいけないだろうなあと
最近あらためて思うようになりました。

1本目の矢を全力で放てるのは、数ある医師の中でも、我々病理医だけだからです。


ともすれば研究会での臨床画像・病理対比はimpact factor 0の研究であるとか
役には立つけど出世はできないとか、いろいろ言われて来ました。
しかし、今、先生に熱い視線を送っている臨床医はみな、
先生の形態解析にぐっと来ています。結局、そういうことなんです。

昔は、形態を大事にした病理医がいっぱいいました。
今もいますけど(あの有名な○○先生だってそうです)。
けど、若手にはほとんどいません。
これは、彼らが、2番目と3番目の矢の強さに心を奪われているからです。

ほんとうはぼくが「1番目の矢」を一手に担って、
病理業界の3本の矢を引き受ける役をやればいいんだなと思っていました。
しかし、先生が登場したおかげで、ぼくの負担は激減しましたし、
ぼくの野望は半分ついえました。

織田信長を見ていた斎藤道三はこんな気持ちだったんでしょうかねえ。


今ぼくは、先生が業界のトップになる日を想像しています。
先生にはそれくらいのポテンシャルがあります。
お忙しいとは存じますが、先生は2番目と3番目の矢を持ちながらも
1番目の矢を極める可能性を秘めた病理医だと思います。

力を圧倒的なものにするためには、「VSを使った対比」でも
圧倒的なパフォーマンスを身につけていかなければいけません。
少なくともぼくを含めて、先生より上の医師たちは
VSを使った対比よりもPowerpointを使った対比のほうが上手ですし、
より多くの情報を伝えることができています。

けれど、これからは、VSです。
VSを使った研究会、あるいは教科書、そういったものを、
先生主導できちんとやっていくべきだと思いました。

ぼくの脳を貸しますので、戦略的に行きましょう。
ぜひ登り詰めてください。

ヒントをひとつお出しします。
VS対比には、「その場で書きこめるペン」が必要です。
あるいは、「その場でキーワードが表示されるモニタ」でもいいです。
組織に対する理解が少ない臨床医をターゲットに、
短い時間でどこまで先生のことばを脳に突き刺せるかを考えながら、
VSを活用したらよいと思います。


市原 真 拝