だから、楽しそうな人が「楽しいよ、と薦めるもの」を探っている。まあ、たいていは、本だ。ネットを見ながら、いつでも探しているよ、おもしろい本、くだらない本、こんなところで紹介されるはずのない本(もちろん今の一文は山崎まさよし風に読んでください)。
さて、楽しそうな人が楽しいよと薦めた本は、「原酒」に当たるのだと思う。原酒はアルコール度数が濃すぎたり、通の味覚がないと良さがわからなかったり、個性という名のトゲが潜んでいたり、口当たりが良いものとは限らず、なんというか、一見さんを遠ざけるようなあくの強さを秘めていたりする。
「楽しいよ」と薦めてくれた人は、そういう原酒でもじゃんじゃん飲んでしまうような、酒に強い人かもしれない。ただ、必ずしもそうとも言い切れないなあ、とも思っている。彼らは、うまいのだ。癖の強い酒でも、おいしく飲むだけのスキルを持っている。
人に本を薦めるのが上手なひとは、どうも、自分の中で、複数の本を「ブレンド」しているふしがある。取っつきにくそうな専門書を読む際、別の本を読んだときの感想や、他の話題で感じたことなどを、うまいこと混ぜ込みながら、著者が言いたかった事をうまく引き出しつつ、味わいをとっつきやすくして、しかもさらに深みを加えてみたりしている。
ウイスキーの原酒に加水するような作業に似ている。度数を下げて飲みやすくするには留まらず、程良く薄めることでかえって香りが花開くような効果も起こる。
キーモルトにグレーンウイスキーなどを複数加えて、万人がおいしく飲めるようなブレンドウイスキーを作り出す、マスターブレンダーのような人もいるし、もはやウイスキーとは何の関係もない、ベルモットやビターズのような別種の酒を混ぜることで、本来想定されていた顧客よりもより多くの人が楽しめるカクテルに仕立ててしまうバーテンダーもいる。
彼らの脳内は薄暗いバーになっていて、読んだ本は名作も駄作もすべて、バックカウンターにボトルとして並んでいるのではないか、と想像する。
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戦場にはカクテルグラスもシェイカーもないと言いながら、口の中でジンとベルモットを混ぜてマティーニを作った、という逸話は、ヘミングウェイだったろうか。
バーテンダーの前に座って上手なカクテルをもらうのも楽しいが、自分の口の中でえいやっと酒を混ぜる野趣あふれる飲み方もある。強いアルコールがズドンと腑に落ちるような飲み方ではあるが、趣向を凝らしている分、笑顔も増える。
そして、悪酔いをすることになる。