2017年1月6日金曜日

病理の話(35) 社交辞令的な戦友

医局忘年会で、いつも世話になっている他科の医者たちに挨拶をした。

消化管専門医たち。

胆膵専門医たち。

肝臓グループ。

小児科。

外科連中。

泌尿器科、IBDセンター、婦人科、健診センター、耳鼻科。

呼吸器科。整形外科。放射線科。眼科。

院長、副院長、総務のひとたち。


1年間顔を合わせていない人もいるが、たいていは、カンファレンスや電話などで、会ったり相談したりを繰り返している。

ひとつの病院に10年勤め続けた病理医には、戦友が増える。



そんなの、どんな仕事でも同じだろう、と思われがちだが、実は病理医というのは「常勤」の割合が少ない。

もちろん、ひとつの病院に勤め続けるタイプの病理医もいるが、大学に紐付けされていて非常勤(バイト)というカタチで週に何度か来るだけの病理医もいれば、病理診断センターに登録することで複数の病院の業務をちょっとずつ、まるでビュッフェを巡回するかのようにまんべんなく診断をしている病理医もいて、いろいろなパターンがある。

どんなワークスタイルにもそれぞれにメリットがあるので、常勤が偉いとか大学がすごいみたいな紋切り型の評価はできないが、実感として、常勤の病理医である場合には、忘年会で、

「ほめあげられる」。



「いやーいつもお世話になっております、ほんと先生がいないと我々なにもできませんからねぇー。」

「先生いつもありがとうございます。お世話になっております。ぜひまたご指導くださいー。」

「常勤でいてくださるとどれだけラクかー。ほんと助かってますぅー。またよろしくお願いしますぅー。」



これは、ま、人であれば、普通は、気持ちいいだろうとは、思う。

だから、忘年会であいさつに回るのは、苦ではなかった。



ところが、最近、どうも反応が変わってきた。

忘年会で顔を合わせると、こんな風に言われるようになった。



「あっ先生そうだ! ごめんねこんなタイミングで、こないだのあの腫瘍か腫瘍じゃないかわかんなかった人の生検、あれ、どうなった? まだ? ん? プレパラートできるの明日? そうかーごめん採ったの今朝だわ、あれすごい気になるんだよよろしくね」

「おっお疲れ様です。あっ聞こうと思って忘れてたことあった、先生の顔見たら思い出した! あのね、先生がこないだ書いてたあの特殊型のアレ、文献つけてくれてたけど、あれってPDFのやつある? 紹介先にメールで送りたいんだけどどう? ない? 古いから? そうかーじゃスキャンするわありがと……スキャンしてくれる? ほんと? ごめんねありがとう」

「あー先生俺こないだ学会行ったらさあ……あっそうかまずは今年も一年おつかれさまでした。来年もよろしくお願いします。はい。でさあ、こないだ学会行ったらさあガイドラインが変わっててさあ、また病理と相談しなきゃいけないなって思ったんだよ……」



いろんな人に、矢継ぎ早に「注文」だったり、「最近の医療の話題」だったり、「病理で聞きたいけど勤務中にはちょっと聞きづらかったこと」みたいなのを、たずねられるようになった。

あいさつに回る先々で、仕事の話題がはじまる。



あまりぼくの心情を詳しく書くことはしないが、結論から言うと、ぼくは、今の方が

「常勤でやっててよかったな」

という感覚が強い。


なんでだろうな。便利使いされてるだけのようにも見えるけど。うまく言語化できていないんだけど……。


今は、前よりも、「戦友」になれているような気はするのだ。