2017年12月28日木曜日

病理の話(155)

病名を付けるというのは病理医の仕事の中で最も重要なポイントである。

つまり! 結局! これは、がんですか! がんじゃないんですか!

そういう質問には力がある。

回答も力を持つ。

「はい、がんです」

もうここで臨床医も看護師も患者もみんながっかりするわけである。




しかし、実際に「患者の明日」に影響するのは、「どんながんか」であり、「どれくらい進行しているか」である。

「がん」という病名だけでは、ほとんどのことを予測できない。




ひとくちに「がん」と言っても。

腺癌(せんがん)と、扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)と、神経内分泌癌(しんけいないぶんぴつがん)では、効きやすい薬がまるでちがう。



じゃあ、腺癌であればだいたい共通した薬が使えるか? それも違う。

肺の腺癌と、乳房の腺癌は、どちらも「腺の性質を持ったがん」だが、性質がまるで違う。効く薬も違う。




それなら、肺の腺癌であるとわかれば、ほぼ挙動が予測できるか? 残念ながらこれも間違いだ。

Lepidic growth pattern優性の肺腺癌と、acinar pattern優性の肺腺癌。これらの悪性度(命に影響を及ぼすつよさ)は同じではない。




だったら、だったら、肺のacinarタイプの腺癌である、とまでわかれば、もう全部予測できるか? まだまだ。

浸潤部が1cm以内で、臓側胸膜に染み込んでいない場合と、浸潤部が3cmを超えていて、臓側胸膜にも染み込んでいる場合では、予測される将来像が異なる。




うん、わかった、そしたら肺のacinarタイプの腺癌で、1cm以上2cm未満の浸潤部を要し、胸膜には浸潤していなくて、リンパ節転移も肺内転移もない、までわかれば、患者が将来どうなるかを予測できるだろうか?

……いくらなんでもここまで細かく見れば、予測できるだろうか……?



いいせんいってる。

けど、これでも足りない。

この肺癌が、EGFRという遺伝子に変異を持っているか、ALKという遺伝子の関与する融合遺伝子を有しているか、ROS-1遺伝子に変異があるか……。

PD-L1ががん細胞の表面に発現しているか……。

まだ見つかっていない遺伝子変異も含めて(!)、遺伝子・タンパクレベルでどのような性質であるかを観察しないと、世にたっくさん存在するどの抗がん剤がよく効くかが、わからないのだ。







これらを緻密に、もらさず検索することこそが病理診断の仕事である。病理診断の仕事とは、細胞をみてあーおもしれぇなー不思議だなーというだけに留まらず、どこかで必ず、

「患者がこの先どうなるか、どういう治療をしたらいいか」

を推測するための手段でなければいけない。




いつもいつも推測できるとは限らないし、推測するにしても幅が大きい。話も長くなる。だって今日の記事にしたってずいぶん長いだろう。

けれど、患者や医療者が「じっくり」話を聞いてくれないと……。

「がん」というところに心を奪われてしまい、「どういうがんか」を聞き漏らしてしまうと……。





だからぼくらは、「伝える技術」を学び続けないといけないのだと思う。今まで以上に。