旅はぼくを読者にしてくれる。
「移動の最中」はまとめて本を読むチャンスだ。
飛行機の中で、よく本を読む。あのミステリもあのSFも全部旅行中に読んだ……。
と、昔もブログに書いた覚えがある。
ただ、実は最近、旅行中にあまり本を読めていない。移動中、困憊してしまっており、座席についたら目的地までほとんど寝てしまうからだ。持ち歩いた本を一度も開かないままに職場に戻ってきて、かばんに入れた本をそのまま出して元通り本棚にしまい込むことも多い。
旅路は人生だという。しかしぼくはその人生で睡眠ばかりとってしまうようになった。結局、旅というのは、「どこかでひとやすみしながら移動すること」を言うのだろうな。ただ移動だけしても旅にはならない。優れたサラリーマンは休暇を適切にとるなどというが、優れた旅人もまた、ゆっくりぼうっとする時間を旅程に紛れ込ませているはずだ。
ぼくは旅人であることをやめてしまっている。
日帰りの出張が増えた。翌日を移動で半日潰さないために。あるいは、一刻も早く家に帰りたい、と願って。
移動中はずっとぐったり寝ていて、本も読めず、翌日は翌日で、日帰りのダメージを背負ったまま目を伏せがちに働く。
いそいで日帰りする苦労を繰り返して疲れた、ということを言いたいだけだ、今のぼくは。
徹夜すれば努力したことになる受験生と何も変わらない。
成長がない。
自分より若い病理医が、夜中の2時まで診断をしているとか、毎週出張で飛び回っているとか、論文を毎月書いているとか、そういうことを言う。ぼくもじわじわと焦っている。高密度で長く働けなければ社会人ではない、と、いつのまにか唱えている。
本を読む時間を削って仕事をして、それが成功したとして、そのぼくは、なんなんだろう。
デスクの後ろの本棚に、「読むつもり」の本を2冊ほど積んでいる。
この2冊が、5冊くらいに増えることはあるが、それ以上になることはまずない。積ん読というのが苦手なので、本が読めなそうなときには次の本を買わないからだ。
今ある2冊のうち、1冊は「小説」。もう1冊は「教科書」。
たいていいつも、小説やエッセイのような仕事と関係のない本と、仕事に多少なりとも関係ある教科書とを、1冊ずつ用意しているのだが……。
教科書の方は順調に読み進めているのだが、小説が、2か月ほど変わっていない。読めていない。
*
「タウマタ」という名の写真集を買った。まだ届いていない。どういう写真集かもわからないが、ぼくはきっと、その写真を眺めているうちに、旅に出たくなるのではないかと思う。
実際に旅行をするかどうかはわからない。けれど、旅に出た気分になる方法は知っている。本を読めばいい。
読書はぼくを旅人にしてくれる。