古いドイツ車に乗っているのだが、冬が来たらまたエラーのランプが点灯した。去年もこういうことがあった。触媒コンバータの故障を意味するランプだ。
ウェブサイトで確認すると、アクセルを控えめに走行して早くディーラーに持って行け、とあるので、ご指示に従ってディーラーに行ってみた。するとまったく違うことを言うのだ。
「これはですね……その……いわゆる『かぶっちゃった』ってやつでですね」
コンバータじゃないのか。
かぶる、なんてのはずいぶん昔のアメ車乗りがいっていた言葉だ。エンジン内の燃焼が悪いときに、イグニッションの部分に不完全に燃焼したガソリンが「かぶってしまう」ことで、エンジンの始動がいまいちうまくいかなくなる。
ディーラーの整備士は言うのだ。
「えー、黄色のランプってのは黄信号で、ですね……まあその……気を付けて走行すれば大丈夫でして……えーと、近所のコンビニに5分くらいで着いて、すぐエンジンを切るような運転をしてると、こうなりやすくなります。あとはー、冬になるとなんかいろいろこうなります。けど高速道路を走ったり、回転数をあげて走ったりするとそのうちランプも消えますよ」
いったい何を言っているのだ、こいつは。
おかしくなって笑ってしまった。自分が何もわからないものに乗っていること、ウェブサイトであれだけアラートを鳴らしているにもかかわらず、整備士が至って呑気で、むしろ、「この程度ならまだ大丈夫ッスよ」とでも言いたげなこと……。
今年も冬が来てまたランプがついた。
さてどうしようと思ったのだが、ひとまず高速道路で新千歳空港に行く用事がある。
黄色アラートが点灯した状態で高速走行など絶対にやりたくない危険な行為だろう……と、以前は考えていた。しかし、昨年の整備士のお説によれば、
「回転数をあげて長時間走行するとエンジンが安定するんすよ ランプも消えますし」
なのである。
十分に注意して高速に乗り、制限速度ぎりぎりでじっくりと1時間ほど運転してみた。
翌日にはランプが消えていた。
また笑ってしまう。はは、ぼくは何にもわからないまんまに車に乗っている。
整備士がほんとのことを言っているかどうかも確かめようがない。
ググっても違う情報が出てくる。知人はそれぞれ好き勝手な事を言う。
ランプがついてもまた消えるというなら、ランプの意義とはなんなのだ……。
病院に来る患者なんてのは、みんなこういう思いをしているのだろうなあと思った。
血液検査の結果を見ておどろく。黄色のランプがともっている。
どうすればいいんだろう、あんなに糖質制限してるのに不健康なの、どういうこと?
医者にたずねる。
炭水化物減らしたせいでかえってタンパクとか脂質が過剰になってるんですよ。そのせいで中性脂肪が高くなってるんですね。
もう何を言っているのかわからない。
こうしろって書いてある通りにしたのに。
医者に言われて食生活を変えればよいのか。
そもそもこの「黄色ランプ」は、自分にどういう危険をもたらすのか。
ググると違うことを言っている人がいっぱい出てくる。
医師免許を持っている人なら安心かと思ったけど。
ウェブサイトに「医師です」と書いてあるのをそもそも信じてよいのかわからない。
食事のことなら栄養士に聞く方が安心かなあ。
でも、聞いたところで、結局なにを言っているのかわからなかったらいやだなあ……。
*
今朝はとても寒かった。氷点下にふるえながら、運転席に座り、キーを回し、助手席においていたひざかけを手にとり、さて発進しようと思ったら黄色いランプが点いていた。
古いドイツ車はだめだな。
でも、車ってのはそう簡単に乗り換えられるもんじゃないんだ。
ちょっと血圧が高いからって来世に期待する人間がどこにいるだろう?
問題は、この黄色ランプが、高血圧くらいの意味なのか、高コレステロールくらいの意味なのか、ぼくにはさっぱりわからないということなのだが……。