2018年8月15日水曜日

病理の話(232) Y染色体とは拡張パッチである

人間はレゴブロックでできていて、まあレゴブロックと言い切ってしまうといろいろ語弊があるので、そこは正確に言い直すと、タンパク質でできているのである。

レゴブロックと同じように、タンパク質にもいくつかの種類がある。そのいくつかのタンパク質を組み合わせて、人間という途方もない大きな建築を作り上げる。

眼球と足の皮と肝臓がぜんぶレゴからできていると言われてもいやいやそれはないわ、と即座に笑い飛ばせるけれど、ぜんぶタンパク質からできている。もうそういうものなのだ。すみません。

で、さまざまなタンパク質を合成して、適材適所に配置して、正しく組み上げるためのプログラムがDNAだ。

そのプログラムは細胞の中にきちんとしまわれている。

「染色体」というものの中にしまわれている。

だから染色体は「プログラムの書かれた本」だと思えばよい。




染色体は人間の細胞の中には46冊(?)入っている。

ただ実はこの46冊、同じモノが2つずつ組みになっている。

すなわち実際には23種類だ。

同じモノが2つずつ組みになっている理由はあれだ、オタクといっしょだ。観賞用と保存用みたいなものである。

布教用はない。




で、23組の染色体のうち、Xと名付けられた23番目の本が、「組になっていないことがある」。




ふつうにXが2つ含まれている(組になっている)場合は、「XX」。

これが微妙に違っていてペアになっておらず、「XY」となっているときがある。




「XX」のときには、いっぽうのXは観賞用、もう1つは保存用ということで、片方はだいじに取っておかれており(不活化されており)、もう片方のXが体の中で発動する。

ところが、「XY」のときには、XとともにYというプログラムも発動するのだ。

ちょっと余計なプログラムが機能するタイプの人間というのが世の中にはいるのである。




このYというプログラムはかなりマニアックなことをする。

本来であれば卵巣とか子宮、膣の一部になったはずの、臓器の「もと」を、小さく滅ぼしてしまう。

かわりに、精巣の「もと」をうみだす。

大陰唇をひろげて陰嚢の皮にしてしまう。

陰核をのばして陰茎にしてしまう。




つまり「Y」というのは、女性という「人間の基本形」をもとに、男性という「アレンジバージョン」を作り出すためのプログラムなのだ。

基本形が女性だから、男性にも乳首が残っている。機能は持たない。

なぜ基本形が女性なのかというと、それはよくわからない。ヒト以外の動物ではたしか男性が基本形の種族もいたはずだ。

一説に、「母親から生まれてくるんだから、初期は母親の女性ホルモンの影響をうけてもあまり問題がないように、女性として作っておく」という話を読んだことがあるが、ほんとうかどうかは知らない。なんだかうそっぽいなあという気もする。



というわけで、Y染色体というのは拡張パッチみたいなものだ。

拡張だからいいだろう、と考えるのは早計。X染色体の「保存用」を失うというリスクも抱えている。

Yという染色体は、拡張パッチに例えるだけあって、ほかの23組の染色体と比べても相当小さいほうである。体内で最小の21番染色体とだいたい同じくらいの大きさしかない。(ここ訂正しました。ご指摘ありがとうございます)

その程度の差でぐだぐだいっているみみっちい人間にはなりたくないが、そういう細やかな差に気づいてやさしくフォローできる程度のおおらかな人間になりたいとも思う。

一行の中で正反対のことをいっているって? 日本語は難しいな。

細胞一個の中で正反対の機能をうまく維持している生命には勝てない。