2018年9月19日水曜日

病理の話(244) 物流情報での犯人捜し

がんの診療方法にはいくつものやり方があり、その説明方法もまたさまざまだ。

メカニズムが複雑だから、どの視点からがんを語るかによって、毎回違う切り口でがんの説明をしていることになる。

すると聞いているほうも、「こないだはああ言ってたのに、今日は比喩が違うなあ」みたいな混乱を起こす。

とにかく、単純な話に落とし込むのが難しい。

だから、今日の説明も、ぶっちゃけ「例え話」にすぎない。すぎないけれど「がん」の一端をつかむことはできるかと思う。



ある病気が「放っておいてもいいもの」か、「そのまま放っておくと際限なく増殖して体にダメージを与えるもの」かを判断する。

放っておくと際限なく増殖して体にダメージを与えるもの、というのがぶっちゃけ「がん」だ。

では、体の内部にあるがんが、将来(!)際限なく増えるかどうかを今見極めるにはどうしたらいいか……?

予言士でもないとそんなことはできないのだが、まあそれをなんとかやってみようぜ、と考えて調べた人がかつて何十万人もいた。今も何百万人もいる(単位はてきとう)。

で、そういう人たちが見つけた「がんのヒント」が、なかなかしゃれている。




がんはヤクザみたいなもので、がん細胞を直接顕微鏡でみればその姿形がどことなくいかつくて頭がおかしそうだということがわかるのだが、がんを直接みるというのはつまり、「がんを採ってこなければいけない」。

体を開かなきゃいけないわけだ。あるいは胃カメラとか大腸カメラをつっこむ。

がんだとわかっているなら、そういう負担も甘んじて受けよう。

けれどもまだがんだとわかっていない段階で、上から胃カメラ、下から大腸カメラ、お腹のあちこちをずばずば開かれてはたまったものではないだろう。

「がんとわかっていない段階」で、「顕微鏡でみればがんかどうかわかるよ」というのは、けっこう酷な話だ。

だから「がんのヒント」は、できれば体の外からあまり体に傷をつけずにアプローチできる方法で拾い挙げなければいけない。

どうすればいいか?




がんというヤクザが将来めちゃくちゃに増えるとき、「物資を集める」。

それも、周りに暮らしている善良な人々とは違うやり方で、こっそりと、泥棒をするように、大量に、「物資を集める」。

そうしないと思う存分増えられないからだ。

人間の社会といっしょで、ヤクザだというだけで商売は制限され、社会活動もかなり禁じられるから、やつらはつねに「周りの人々とは違うやり方」を選ぶ。

つまり……。

ヤクザそのものを直接みて調べることができないとき。

体のどこかで「物流が乱れていること」をみれば、そこにヤクザがいるのではないかと疑うことができるのだ。




体の中における「物流」とはなにか。

それは血流である。

血液の流れ方を調べる。

それも、臓器に入り込む細かい血管を逐一チェックする。

「造影剤」と呼ばれる薬を使って、CTやMRIなどで、臓器における「物流」をチェックする。

部分的に、正常の臓器とくらべて「乱れている」ところがあれば、そこはヤクザとしてどんどん増えようとしている悪の巣窟かもしれないとわかる。




造影剤を血管の中に流し込んで、CTでみるというのは、いってみれば「影絵」だ。体を開かなくても、外から光(X線)をあてることで、中の姿があらわになる。造影剤を使えば血流がより強調されて見やすくなる。

こうして、「がんを探す」ことができるようになる。




この例え話を進めていくといろいろわかる。

ヤクザが1人とか10人くらいで小規模に活動していたら物流の変化だけでは見つけられないだろうな、とか。

ヤクザ以外の理由でも、例えば事故や災害などで物流がいかれることもあるだろうな、とか。

極めてかしこいインテリヤクザは、周りの物流をまったくいじらずに生き延びることがあるだろうな、とか。

これらはすべて、がん診療を悩ませる原因になりうるのである。