2020年7月17日金曜日

苦行

学会や研究会がぜんぶなくなったけど、代わりにZoomをはじめとするWeb会議がいっぱいはじまった。

とりあえずZoomには課金した。

医者や技師たちと集まって研究会をやるとき、40分で切れてしまうと困る。誰も課金しないならぼくが課金するのが一番ラクだ。一番安いプランを年間で支払った。

病理医は多くの医療者たちとつながる仕事であり、医療のハブ空港みたいな性格をもつ。ハブ空港はどんどん便利になるべきである。多少の負担は給料に織り込み済みだと考える。このお金がまた新たな出会いを生んだりするので必要経費でもある。



みんなはテレワークだと言って自宅からZoomに接続するケースも多いようだが、ぼくはもっぱら職場でZoomだ。結局、医療者はテレワークできない。病院に出勤せずに医療を完遂できる日が来るとしたら、それは患者の肉体がすべて電子化したあとの話になるだろう。プレパラートだけは電子化できるかもしれないが、病理医の仕事相手は究極的にはプレパラートではなくて生身の臨床医だ。いっそ臨床医がAIになってくれればぼくは家にいても仕事ができる日がくる、でも当分はむりだろう。だいいち臨床医がAIになったら病理医も早晩AIになっていると思う。

……逆では? と言う人がいるのだがぼくはAIに駆逐されるのは臨床医が先だと考えている数少ない人間だ。臨床医が人でなければできないと考えている仕事の多くは医者でなくてもできる。「AI+医者以外の医療者」でほとんどの臨床知は回る。まあ完全に臨床医がゼロになる日はこないだろう、既得権益があるからね、でも総数は減る。あるいは未来の臨床医は今の臨床医とはおそらく違う存在になっている。どちらかというと病理医に近い存在になっているはずだ。うける。

いまのところぼくは人間相手に仕事をしていい人間だ。そして出勤はしなければいけない。

Zoomが増え、仕事は減らず、出勤は続き、金はかかる。負担ばかりが増える。4月から6月までに4キロやせて、これはもしや病気か、と思ったが、その後体重減少は止まり、しかも現在ベスト体重である(BMI 23)。なんかうまくやせた。これくらい働かないとぼくは太って不健康になるということなのだろう。今がちょうどいいんです。



さてZoomについてもう少し。

とにかく、参加者がみな手前を向いているのが耐えられないので、ぼくは最近なるべくナナメを向いたり横を向いたりしている。可能であれば後ろに猫が通ったりするといいのだが、残念ながら職場で猫を通すことはできないのでかわりにうしろにサボテンを置いたりぬいぐるみを置いたりする。なるべく参加者の視線が無駄に散ることを望む。けれども参加者が10人を超えてくると、あの、モニタリングとかがよくやっている、全員がちっちゃい画面でなんだか下の方をうっすら見ているつまんねぇ構図になる。あれがマジで耐えがたい。きもちわるい。

ひとまずぼくはしゃべっている人の方を(画面上で)向くようにしようと思った。しかし参加者はそれぞれ画面設定をいじっていたりするし、もっと言えば参加順やホストとの関係によって人々の表示される順番や配置が違うらしいので、ぼくのPC上ではうまいこと発言者の方を見ているように映っていても、他人のPCからみると逆に反対側を向いて議論から逃げだそうとしているように見えることもあるという。

人のPCの画面上までは責任を持てない。でもYouTube Liveのときにはなんかうまいことできないかな、という気持ちがあった。SNS医療のカタチONLINEでの話。

大塚や堀向のPC上でぼくがそっぽを向いていてもかまわないとして、YouTube連携している山本のPC, さらにはYouTube LIVEの画面上で、ぼくがうまいこと発言者のほうをみていたらかっこいいなと思った。

Zoom連携したYouTubeの配信がはじまると、リアルタイムにだいたい30秒遅れてYouTubeに画像が飛ぶ。

ぼくは、PCの横に自分のスマホを置き、スマホでYouTubeを再生しておく。PC画面にはリアルタイムでしゃべるSNS医療のカタチの面々や、毎度のゲストの講師などが映っている。最初はその話をまじめに聞き、YouTubeのコメント欄のコメントを拾ったり返事をしたりする。そして、演者の講演が終わってパワポの画面共有が終了され、SNS医療のカタチのメンバーと演者が一同に画面上に表示されたら……孤独な戦いがはじまるのだ!

PCに表示されているZoomの画面は「偽り」である。視聴者がみているのはスマホに映っているYouTubeのほうだ。これが30秒遅れであることに気を付けつつ、スマホの画角をみながらぼくの顔を演者のほうにむける。くり返すがPCは当てにならない。そのときリアルタイムでしゃべっているのが大塚だった場合、スマホで大塚がぼくの左下に映っていれば、PCの画面上で大塚がどこにいようともぼくはPCの右下のほうに目線をやる(鏡とは違うので左右が逆になる)! そこには何もない。虚無だけがある。あるいはマウスなどがあることもある。30秒遅れのスマホをちらちら見ながら、ぼくは虚空に流し目した自分の表情、自分の目線が、視聴者から見てちゃんと大塚のほうに向いているかどうかを確認する。

(あたかも左下の大塚に向けて手を差し伸べるように虚空に手を出すぼく)


よし、これでOKと思った矢先に今度は堀向が発言! ただちにスマホ画面上で堀向のいる場所、すなわち真下に目をやる。あまり下を向きすぎると作為が感じられてつらいからこのときはPCのキーボードあたりをふんわりと見るようにする。もはや演者の表情も声もコメント欄もTwitterも何も見えていない。ぼくにはただ、自分の顔の向きが適切かどうかしか見えていない。あっ山本が不規則発言だ! 自分の本を売ろうとしているぞ! ぼくはただちにのけぞり笑いの姿勢をとりながらすばやく後ろの本棚に挿してある山本の本を手にもって戻ってくる。このときスマホYouTube画面で山本の位置を確認しつつ、ぼくと山本の姿勢があまりかぶったものにならないように、画面全体のデザインを気にしなが





正直ぼくZoomが楽しいです。体重は1キロリバウンドしました。