2020年8月5日水曜日

病理の話(440) 病理を勉強し始めようとする人への唯一の弱めのアドバイス

ほとんど顕微鏡も見たことがないという初期研修医が、病理にやってきた。期間は1か月。将来は病理医になりたいのだという。

将来病理医になりたいと決めている医者が、医師免許をとった直後の初期研修の2年間でどれだけ病理の勉強をするべきか?

さまざまな意見があるが、ぶっちゃけどうでもいいというのが今のぼくの立ち位置だ。

全く病理の勉強をしなくてもいいとすら思っている。どうせ後期研修医になれば病理に専心できる。さいしょの2年のスタートダッシュで差を付ければその後大きく変わる、というわけでもない。なにせぼくらは40年以上勉強し続ける職業だ。2年なんてその後の人生から考えれば「誤差」である。初期研修の2年間でそこまで病理に本気にならなくてもいいとすら言える。

すなわち、「若いときの2年間」は、本人が充実するように組んでもらうのがいい。メンタルにやさしければいい。「どっちでもいい」。

初期研修期間を「病理以外」の勉強をする最後のチャンスだととらえて、他科での研修に全フリする人は多い。放射線科を回ったり、外科で濃厚に研修したり、消化器内科にどっぷり浸かったり、ときには地域診療に身を捧げたり。そういう人生、「楽しくていい」と思う。楽しいだけではなく、他科の医者の目をもって病理医をはじめると、モチベーションが上がるタイプの医者はけっこういる。クライアントの気持ちを知っておくということだ。

逆に、本人が一刻も早く少しでも多く病理の勉強をしたいというならば、初期研修のうちから3か月でも6か月でも病理にいればいい。

たとえば、初期研修をする施設で引きつづき後期研修をする予定ならば、初期研修のうちから病理にいることで、他科のドクターから「初期研修から病理にいた熱心なヤツだね!」と早く覚えてもらえる可能性が高い。これって働き方としては上手だと思う。



まあどっちでもいいのだ。



そして最近。

おそるおそる、初期研修医に付け加えて説明することがある。病理にどれだけ時間を捧げるかよりももう少しだけ、ぼくが大切だと思っている話。

「本は読まないよりは読んだ方がいい」ということだ。

ま、あまり無理強いはしない。

本を読むよりも顕微鏡や臓器の肉眼像に直接ぶちあたって肌で覚えるタイプの病理医もいるので、とにかく本を読まなければ病理医にはなれない、とまでは思わない。




けどなあ……本が読めない人と、本を使いこなしている人、どちらが病理医として幅広く活躍しているかというとなあ……。




ぼくは初期研修医が病理にくると、研修内容をゆるめにして、ここぞという推薦図書を数冊渡して、「このあたりまでは読んでおくといいかもしれない……無理はしなくていいですよ」と言うようにしている。おずおず。おっかなびっくり。

今回、うちに来ている初期研修医は、そこそこ本を読むようだ。よかった。まじで安心している。「最低限の本」というのがあるのだ。ぼくらは文章を扱う仕事なので、全く本に興味がないと言われるとちょっとだけ困ってしまう。