1年くらい前には三叉神経痛で苦しんでいた。三叉神経などと書いても文字からはどこが痛いのか伝わってこないが、ぼくの場合は「歯」だった。というか歯茎の奥とでも言うか。知覚過敏になったり(熱いモノもしくは冷たいモノがだめ)、鈍痛が来たりする。最初はぜったい虫歯だと思った。しかしいくら調べてもらっても虫歯が見つからない。おまけに、上の前歯の少し左横と、下の前歯の少し左横、すなわちかみ合わせる部分が両方とも同じタイミングでズンと痛くなることがある。これって神経だよな、と思って神経内科で聞いてみたらやっぱり三叉神経痛を疑うとのことだった。エリカだかマリカだか忘れたけれど何やら薬を出しましょうか、どっちでもいいですよ、と聞き、3か月くらいで治ることが多いよとのことだったので特に何も飲まずに過ごしていたら、3か月後には本当に治っていた。
そしてその頃から腰痛が出始めた、これは半年続いた。ぼくが今驚いているのは、一時期は医局まで歩くにも足を引きずらなければいけないほどの重度の腰痛だったのに、今こうして振り返ってみると「治った」ということ。まさかこの腰痛が治るとは思わなかった。多くの仕事をキャンセルできたのはひとえに感染症禍のおかげでもある。デスクでZoomするだけでもきつくて泣きそうになっていたけれど、一昨年と同様に出張しまくっていたら果たしてどれだけ長引いたかわからない。というか、飛行機の搭乗口で歩けなくなって搬送されていたかもしれない。何がいいほうに転ぶかわからないものだ。
そういえば腰痛が治ったな、ということを意識したのはじつは昨日のことである。なぜかというとぼくは今、頚椎症がひどいのだ。具体的には首を少し見上げる姿勢で完全に右手がしびれる。家に帰ってテレビを見ているときも油断するとしびれる。おまけに、右手の人差し指だけは姿勢にかかわらずずっとしびれていて、これがもう3週間くらい続いている。頚椎症は初めてではなくて5年ぶり2度目。これもまたいつか治るんだろうなあ、と漠然と期待していてふと思った。「あっ、腰痛治ったな」と。
こうしてぼくは次から次へとどこかが不調である。なるほど中年とはこういうことなのか、と身を以て知る。書いていて急に思い出したのはIBS(過敏性腸症候群)のことだ。3年くらい便通がおかしい。痛みを伴い、下痢と便秘をくり返す。休みになるとぴたりと治る。食事をいろいろ変えて繊維質を増やしても、仕事のストレスが多いとほぼ役に立たないが、妻と相談して食事に気を付けているうちに前よりは付き合いやすくなった。付き合い続けることに慣れてしまい、もはや自分が抱えている体調不良として腰痛や頚椎症と共にノミネートするのを忘れていた。ああ、中年とはこういうことなのか、と思い知る。
先日ついに老眼が来た。ぼくは右目の視力が1.2で遠視、左目が0.3で近視なので、人に説明するときには「遠近両用」と言っているのだけれど、とうとう本を読んでいて「あっつらいな」と感じるようになった。着々と患者の気持ちがわかるようになっていく。今年43歳になる。何かを成し遂げるには十分な歳だ。体の痛みはまったく愛おしくない。歳を取ることはちっともうれしくない。その上でなお、何かを成し遂げるには十分な歳である。成し遂げるっていうか遂げたらだめなんだろうな、継続していかないと。痛みと同じように。