雪が降るとすごく静かになる。
おそらく、ぼくらの耳には、普段は気にも留めない「ベースレベルでの雑音」みたいなものが、絶えず飛び込んできているのだろう。かつて、タモリは「静かな部屋に入るとシーンという音が鳴っているように感じる」とかなんとか言っていた。
雪は、「シーン」すら吸収してしまうように思う。原稿仕事が続いていた。両耳にイヤホンをして、すごく古い洋楽を聴きながら、延々と「である」「なのである」「であるのだ」の入れ替え作業などをしていた。曲が終わり、さて次はどのアルバムにするかと、iTunesをいったん止めて伸びをして、イヤホンを耳から外したとき、シーンという音がしなかった。ああ、雪だろうなと思った。外は暗く、実際に雪が降っているかどうかはわからなかった。夜通し、時たまシーンという音が聞こえたり聞こえなかったりするように思えた。朝になっても無音は続いていた。いよいよ朦朧としてきた午前4時半ころ、カア、カアという鳴き声が聞こえ、窓の外をみたら、雪が止んでカラスが鳴いていた。シーンより先にカラスが、雪が止んだことを教えてくれていた。
カラスの鳴き声に何かを感じそうになるも、まあ、そういうものではないわな、と考え直したのは誰だったか。
「銀座のカラス」を書いた椎名誠の、カラスはあくまで比喩だったように記憶しているが、夜通し原稿用紙やらパソコンやらに向かい合う人間だったら、同様の経験は一度ならずともあるだろう。
カラスは、天気が小康状態に入ったことを教えてくれる。朝方のカラスの鳴き声は吉兆である。
ぼくは勝手にそう決めている。