2018年11月29日木曜日

病理の話(268) ピンポイント探知機とふんわりゲシュタルト

細胞を観察して、病気の種類や進行度合いを特定するとき、細胞がどんな形をしているか、染色したときにどのような色で染まるか、という情報はある意味非常にアナログだ。

細胞の核がでかいとはどういうことか?

細胞質になにか空胞のようなものがあるとはどういうことか?

ひとつひとつ、「所見」に意味を重ね合わせて、病気の正体を探る。これが病理診断学のキホン。

これは、歩いている人をぼうっと観察して、そいつが悪人かどうかを判断するのと、似ている。

全体にまとった雰囲気、なんか悪そうな目つき、なんかいかにもなリーゼント、なんとなくチラ見する首元のいれずみ……。

全体をぱっとみて、「あっヤクザだ!」ってわかるときもあるし、注意深くみないとわからないときもある。なかなか主観的な作業ではある。



これに対し、現在、病理診断の世界においては「免疫染色」という手法が全盛である。

このやりかたは、細胞全体の雰囲気をみるのではなくて、細胞がもつタンパク質1つに注目して、そいつの性質をあばきだすという手法だ。

たとえていうならば、空港の金属探知機みたいなものである。

人間のシルエットの中に、金属成分だけを浮かび上がらせると、拳銃が見えてくる。そしたらそいつは悪人だ。一見良さそうな顔をしていても、空港で銃を持っていたらアウトだろう。



けれども免疫染色にはちょっとした弱点がある。

それは、「金属探知機は金属しか見つけられない」というのと似ている。

今、どれだけ技術がすすんでいるかしらないけれど、たとえば、「金属探知機にひっかからない特殊なプラスチック」で拳銃を作っていたら、金属探知機では検出できないだろう。

それといっしょだ。

細胞をみて、「あっ、あのタンパク質Aに対する免疫染色をしよう」とやったところで、調べていないタンパク質Bの異常は検出できない。




ヤクザかどうかを全体像でふわっと判定したあとに、●●探知機をいくつも用いて、ヤクザと確定できるだけの物質を探し出す。これは現代の病理医がやっている診断とかなりよく似ている。





その上で、あえていうのだが、最近ぼくは、「ヤクザかどうかを全体像でふわっと判定する」ほうの技術をもっと向上させられないだろうか、ということをよく考えている。

探知機は便利なので使いこなすけれども。

たとえばディープラーニングを用いた画像解析をうまくつかうと、「全体像のふわっとした解析」はとてもうまくいきそうだ、ということがわかりはじめている。

そして、それだけでなく、HE染色のような「色づけ」システムにもまだまだ見所があるな、という印象をもっている。

HE染色だけではなく、PAS染色やEVG染色、鍍銀染色などをもっと詳しく使いこなしたい。昔の病理医達は今よりずっと染色マニアだった。

染め方を変えると、見えてくるものも変わる。




結局、ぼくは、20代のころ自分がバカにしていた(と言わざるを得ない)、昔の病理医のアナログなやり方に回帰している。年をとったということかもしれないし、先達は偉いということを今さら知っただけのことかもしれない。