原稿書きが一段落した土日に本を読んだ。
池袋の三省堂で選書フェアをやることになったとき、信頼できる編集者数人に「おすすめの本を教えて、ただし自分で編んだ本以外。もし自分が編集していたら最高に自慢できたろうな、っていう本を教えてください」と依頼したところ、熱いメールがおくられてきて、合計8冊ほどの本をもらったり買ったりして手に入れた。
どれもこれもおもしろい。
そしてちょっと沈鬱なきもちにもなった。
こんな本をすでに読んで「おもしろい!」と思っていた人間たちが、ぼくの書いた文章を読んで、感想をつけてくれていたのか……。
だとしたら、どれだけ退屈だったろうか。
プロサッカー選手が引退したあと、小学生にサッカーを教えるサッカー教室を開催することがある。
元プロは、目指せ、追い越せ、と笑いながら、ときおりすごいフェイントやすごいドリブルなどを見せる。
あるいは友人の現役サッカー選手を呼んできて、小学生たちに「本物の技術」を見せたりもする。
けれども、元プロがプロだったころは、海外のトップチームと戦ってボコボコにやられたり、代表戦で力の差を感じたりしたことがあったのだ。
自分が教える技術は「本当の一流」ではないんだということはよくわかっている。
そういうものを小学生たちは知ることがないし、知る必要もない。
けれども小学生も感覚としてはわかっている。
「この元プロもかつて目指したような、もっとはるか上があるんだよな」ということを。
ぼくは小学生より傲慢なぶんタチが悪かった。
しかし編集者というのは我慢強いものだ。
小学生に向かって大人にかけるような言葉使いで、何を長年待っているのか。
あるいはもう何かをあきらめてしまっているのか、あきらめていないとしたら、彼らはいったいどれだけの人に希望を見続けているのだろうか。
……そういえば彼らは「元プロ」ではない。現在まさにプロなのだ。
そのあたりが、元プロサッカー選手の開催するサッカー教室とはまるで違う点なのだろう。