2021年9月6日月曜日

病理の話(573) 四角形のカドを丸くしていったらどこから四角形でなくなるか

表題を読んで「あー。」と思う人もいるだろうが、なんのこと? となった人向けに、軽く図で説明をしよう。



左から順番に、パワポで、「カドを少しずつ丸くしていった」図形である。


一番左は、いちおう「四角形」ということでよいのではないかと思う。


一番右を「四角形」と言い表す人は少ない、というかほぼいないのではないか。


では、あなたは、左から何番目までを「四角形」と認識するだろう?


……人それぞれだろう。もう一度出すよ。



左から3番目くらいまでは四角形でいいかな、と考える人が多そうだ。でも、「なんかカドが丸いね」くらいのコメントが付くかもしれない。左から4番目もギリギリ四角形でいいんじゃない? 四角いお弁当箱って言ったらこれくらいのやつでしょう。いやいや、せいぜい左から2番目まででしょう……などなど。


じつは一番左も、拡大しまくると、カドは丸い。




「図形を言い表す」というのはじつはすごく難しい。個人がそれまでに積んできた経験や、例え話のキレ味、説明の説得力などでいくらでも左右されてしまう。


なにが言いたいかというと、「病理診断」のはなしだ。



病理診断は、細胞の形状などを顕微鏡で直接みることで、がんか、がんではないかなどの極めて大切な判断をする。


このとき、「細胞が大きい」とか、「核と細胞質の比が大きい」とか、「核の輪郭が不整である」などという言葉を用いるのだけれど、大きいとはどれくらい大きいのか、不整とはどれくらい不整であるのかが、人によって違っていては、困る。


あの病理医はがんと言ったけれど、こっちの病理医はがんとは言わない、みたいなことがいっぱい起こってはまずい。


そこで、「大きいとは具体的にどれだけ大きいのか(例:リンパ球の3倍以上大きい)」、「不整とはどれくらい不整なのか(例:輪郭が外に凸の円弧だけで形成されていない)」、などを、いかに具体的に表現するかが大事になってくる。


ぼくの場合、地球の裏側にいる人に電話で伝えても伝わるくらい具体的に説明できないと病理診断としてはレベルが低いと考えている。毎回うまく行くわけではないが、いちおう、9割9分の病理診断は言葉で説明できるように努力している。


とはいえ、具体的に説明できればそれでいい、というものでもないのが医学の難しいところなのだが……。