かの有名な「正露丸」が、じつは西洋医学では未だに存在しなかった「アニサキスという寄生虫を倒す薬」らしい、という論文が出たそうだ。以下にわかりやすい解説がある。
https://nazology.net/archives/95980
これ、世間をけっこう賑わせて、ツイッターのトレンドにもなったから、すでにご存じの方も多いだろう。
こういう話を読むと、昔から伝わる民間療法の一部は、「昔だからこそありがたみがあったのだなあ」ということを考える。
ただし、「今はもっといい薬があるから昔の薬を今飲んでも意味がない」と言いたいわけではない。
事実、アニサキスを駆除する方法は、現代においては「胃カメラで摘まんでとること」一択だったのだから、これが正露丸で倒せるとなると、消化器内科医はびっくりである。今でも十分に使える薬が再発見された可能性があるのだ(まだこれからいろいろ調べてみないといけないけどね)。
それでも、なお言うが、たぶん正露丸がほんとうに人びとの役に立っていたのは、今よりも、昔。
昔のほうがもっと役に立っていたのだろうなと思う。
なぜなら、昔は「今よりももっとアニサキスにやられる人の数が多かった」と考えられるからだ。
今よりずっと魚やイカの生食、あるいは不完全な焼き魚を食べることが多かった時代に、食後の腹痛の原因としてアニサキスは今よりはるかにポピュラーだったのだと思う。食品の衛生環境がよくなり、アニサキスの知名度が増し、料理人たちの目配りも厳しくなって、それでもなお現代に残っているのがアニサキスのやばさだけれど、昔はもっとたくさんの人が、日常的にアニサキスにやられていたに違いない。
だから正露丸がよく効いたのだ。正露丸は、腹痛、食あたりの薬だとされているが、「食あたりのうち、アニサキスが占める割合」が高かった昔は、アニサキスの特効薬である正露丸がよく効いたのであろう。
だからよく売れたのだ。
正露丸はほかの寄生虫にも効いたのかもしれない。しかし、ピロリ菌やカンピロバクター、サルモネラなどにはどれだけ効くのだろうか? たぶん、そんなには効かないと思う。だからアニサキスの有病率が相対的にひくくなり、その他の原因による「腹痛」が相対的に上がった現代においては、「正露丸は……まあ、正露丸だよね」くらいの評価に落ち着いているのではないか。
「温泉が病に効く」というのも、昔と今とでは意味が違うのだろう。病というのが戦場での傷だったなら、流水による洗い流しと酸性度による常在菌活性の変化は多少は役に立ったろうし、栄養不足や寒冷などに伴う関節症状だったなら、水分代謝と湯治場での食事、そして温熱効果も今よりはるかによく効いたろう。
しかし今は「病」のわりあいが昔と違う。となると、何にでも効く、というわけにはいかなくなるのだと思う。令和になって、「温泉は万病にいいよ」と信じている人の数は減ったが、それも無理もない。昔とは「万病」の組合わせが違うのだから。
しかし、そう考えると、「昔よく効くと言われていた薬」にはまだまだ可能性があるのだな。病気は新しいモノばかりではない。結核だって再興した。「かつては効くと言われていた薬」には夢が眠っているのかもしれない。……とっくに製薬会社はそんなこと気づいていたのだろうけれど、でも、正露丸が、今になって、なあ。