2022年4月19日火曜日

病理の話(648) 何にでも言えることだけど

やっぱり「発信するにおいて大事なこと」は、「受信すること」だと思うんです。


たとえばそれはツイッターでも。言いたいことだけ言って、ちっとも周りを見渡してない人の言葉って、「伝えよう」は感じられるかもしれないけど、実際に「伝わった!」にはつながってないと思う。


それと同じことが、たぶん、病理診断の世界でもある。なぜなら病理医は「臨床医に対して顕微鏡を見た結果を伝える仕事」をしているからで、「病理医が一方的に伝えようとすればOKな仕事ではなく、臨床医にきちんと情報が伝わって、患者と主治医との戦略を適切に導けてはじめてOKになる仕事」だからです。




あまりうれしい話題じゃないんだけど、実例を元にしてもう少し具体的に話す。たとえば、ネットで匿名でツイートしている病理医が複数いるが、ぼくはそういう人の正体をけっこう知っている。この世界は狭いので、隠そうと思っていてもだいたい伝わってくる。で、その中には、たまに臨床医にたいする不満をツイートしている人とかもいるんだけど(まあ実名で言っている人もいますけど)、そういうはしばしば、「臨床医からもけっこう不満に思われている」。

「あの人……ツイッターですごい不満ばっかり言ってますけど……ぜんぜんこっちの言うこと聞いてやしないんです」

なんて。ああ、いやだなー陰口合戦じゃん、って思いつつ、ま、なんか、ぼくに愚痴ることでまた明日からがんばれるんならそれでいいんじゃないか、と思わなくもない。不満を口に出すってのは、ケアの一環ですからね。



そういうことが続くと(先週は立て続けにそういうことがあった)、やはり考えてしまう。発信! 発信! と言いたいことを言い続けてちっとも受信しない人たちのあやうさというか。「構造を見極めて言葉を選んで組み立てて隙が無ければOKみたいなやりかたの幼さ」というか。


「伝えること」をやろうと思ったら「どう伝わっているか(いないか)」に対するアンテナをきっちり張り巡らさないといけない。


病理医であれば、「こういうレポート(病理診断報告書)を書いたときには問い合わせの電話が多いなあ」みたいなことに、ちゃんと耳を傾けなければいけないと思う。廊下を歩いていて臨床医に話しかけられやすいムードを作るのも大事。電話が鳴ったらすぐとるってのも地道で地味だけどけっこう重要だと思う。学会の準備の仕事を頼まれたときには、「忙しいのになんで直前になって依頼するんだ」みたいな不満をツイートするんじゃなくて、まず、「なぜその臨床医が直前になるまで自分に依頼をできないのか」ということを本人の口から聞くべきだと思う。毎年若い医者が必ずやらかす、っていうなら、なぜ毎年そこの教育がうまくいかないのかを病理医として病院といっしょに改善していく、そこまでがたぶん病理医の給料の中に含まれていると考えたほうがいいのではないか。



うーん「一般的な仕事論」をやりたいわけではなくて、病理の話シリーズではあくまで病理医とか病理診断にかんする話をしたいんだけど、この話題、定期的にモヤッとするのでやっぱり一度書いておきたかった。受信してから発信しないとだめだと思いますよ。それはもう、病理医ならば、特に。