2018年6月15日金曜日

病理の話(211)

後輩から相談を受けた。

「いっぱい勉強しないといろいろとついていけない、って思うんですけれど、本を読んでいると退屈で寝てしまうんです。病理の雑誌とか、教科書とか、論文とか、大事だってことはよくわかっているのに、寝てしまうんです。先生はどうやって本を読んでいるんですか?」

ぼくだって論文読みながら寝ちゃうことはよくあるんだけどなあ、と思いながら、なにかこの後輩にとって役に立つ情報が自分の中に眠っているだろうかと、しばし考える。

ひとつ思い付いたことをいう。



「まず、自分がこれから勉強したいと思う領域を扱っている、学会とか研究会に出る。論文とか教科書を読む前でもいい。知識が中途半端でもいいので、出る」

「はい」

「そしたら、いろんな人がしゃべる場所に行く。学会だったらポスターとか一般演題じゃなくてシンポジウムとか講演を選んで聴きに行く」

「ふむ」

「で、いろんな人がしゃべってる中で、この人クソおもしれぇな、って人に出会うまでがんばる」

「ほう」

「ひとり、『こいつはすげぇ、こいつの言ってることおもしれえ!』と思ったら、その人の名前と所属を控える。その場で検索してもいい」

「ほほう?」

「で、その人を検索すると、たいていエライ人だ。学会とか研究会で『すげぇ!』と人に思わせるようなしゃべりができる人ってのは基本的に教えるのがうまくて、人の上に立ってて、実績が多い」

「ほほう??」

「だから検索をすると、たいてい、論文とか、教科書とかをすでに書いている」

「むむ?」

「その人が書いた本とか論文を読む。すると、『学会場ですごいなあと思った人の声で脳内再生される』」

「おおお?」

「声真似しながら読む。『結論としてはァ~、この悪性リンパ腫の鑑別においてェ~、重要な抗体が4種類存在しますゥ~』」

「誰の真似ですか」

「聞くな というわけで、本や論文を読むためのきっかけとして、『声を手に入れる』というのをおすすめする」

「……先生もそうやったんですか」

「やった。というかぼくはそれしかやってない。自分が出席した研究会で発言していた人の名前を逐一チェックして、何をしゃべっているかをノートに取っておいた。ある日、その人が書いた総説を読んだら、まるで脳内でその人がしゃべってるみたいな気分ですらすらと読めた。それ以来、論文を読むとき、著者を知っていたら読みやすいということがわかったので、いろんな臨床医の顔や声を覚えるようにしている」

「マメですね」

「ついでに旅もできてたのしいよ」







医療業界以外でどれほど応用できるテクニックかはわからない。また、住んでいる地域によって、この手法が使える場合も使えない場合もあるだろう。

でもけっこうおすすめなのでやってみてほしい。ぼくの個人的な観測だが、Facebookで友だちが多い医者は別にひとんちの子供の運動会やよその夫婦の南国バカンスにいいねを押しているだけではなく、友人たちの著書をきちんと読んでいる印象がある。