仕事目的で乗る飛行機のお金は、出張後に支払われることが多い。
支払いはだいたい出張の2か月前には終わらせている。
つまり、お金がぼくの口座に入金されるまで、2か月ほど空く。
入金されるまでは、ぼくが「立て替えている」ことになる。
今月も、2か月前に立て替えた交通費の振り込みがあった。よかったよかった。
結局、いつも、1,2旅程分の交通費を「立て替えている」。
別に損しているわけではない。
でも、このままもし定年までずーっと「立て替え続ける人生」だとしたら……。
ぼくは人生を通じて、ずっと、立て替える相手がコロコロ入れ替わりながらも、常に数万円のお金の返済を待ち続けていることになる。
あれっ、それってずーっと損してることにならんのかなあ。
なーんてことを、酒の席で、営業職をしている友人に話した。
彼はいった、「そんなこといったら俺は毎月……」
そこで言いよどみ、なんだか表情をズンと暗くして、力なくジョッキを口元に運び、
「いや、いいんだ」
といってそれを飲んだ。
そうだった。
彼のほうがぼくよりもずっと「損」していたわけだ。ぼくはあんまりそこを気にしていなかった。申し訳なかったなあと思った。
だからとりあえずフォローをした。
「い、いや、ほら、貸す立場のほうがさ、おおらかでいられるからさ、借りる立場よりずっといいじゃん」
そしたら彼はいった、「そういえば住宅も車もまだまだローンがおわんねぇなあ」
彼はあきらかに目を落ちくぼませて、力なく小鉢を手元に引き寄せ、なんか松前漬けの劣化版みたいなやつをゴムゴムと噛んだ。
ファイヤーにオイルである。ぼくはあきらめて謝ることにした。
「なんかごめんな……」
「いやいいよ……俺は別に……養育費とかは払ってないから……。」
シベリア化した飲み屋の片隅で、冷戦の色合いが濃くなってきた。
ぼくは次の話題を探す。
飲み会ではお金の話はしないほうがいいな。そうだなあ、”友人”には”悪いこと”をした、”誰も傷つかない話”はないかな、うん、”愛”の話が”いいかもしれない”……。